おっと。見惚れてる場合じゃありませんね!
「へ、平気です!本当にすみませんでした」
「そんなに謝る事はないぜ。こっちも不注意だったんだからなコラ」
ほっ。よかった。恐い人じゃなくて。それにしても、何だか面白い口癖の人だな。一体何処のファミリーの人だろう。
「それより、今日の主役がこんな所で油売ってていいのか?…ボンゴレの歌姫、名字名前」
「!!!」
男性の口から歌姫という単語が出た瞬間、自然と背筋が伸びる。こればかりは仕方ない。今日一日だけで何人もの人にそう呼ばれたのだ。嫌でも身体が反応してしまう。
「…これから会場に戻る所だったんです」
「何かあったのか?」
「いえ。特には。…ただ、余りこういうパーティーに慣れていないので、休憩がてら外の空気を吸いに来たんです」
自分から喋っておいて何だけど、私…初めて会った人に何を話してるんだろう。『パーティーに慣れてない』何て一般人丸出しじゃないですか。
「そりゃまた随分平凡に育ったんだな…コラ」
やはりバカにされたと、そう思った。だけど、何故か怒る気にも、悲しむ気にもならないの。
だって目の前に立つ男性が、とても穏やかな表情で微笑んでいたから…。その顔は決して私を平凡だとバカにしている顔じゃない。寧ろ平凡に育った事を喜んでいるような…、そんな顔だった。
(どうしてそんな顔で私を見るんですか?そんな優しいそうな顔で…)
ザァァ。強い風が私達の間を通り過ぎていく。
さっきまであんなに心地よかった風の感覚も、今は冷たく感じる。でも頬だけは燃えるように熱くて…。この人に見つめられてる所為なのかな。
互いに見つめ合ったまま、暫しの沈黙が流れ、
「名前!!」
自分を呼ぶ声で…ハッと我に返る。振り返るとこちらに向かって走って来るクロームさんの姿が見えた。でも様子が可笑しい。何だか今にも泣き出しそうな顔を…。
「名前っっ」
「ほわぁ!!」
――している。そう思った瞬間には彼女に抱き付かれていた。ぎゅうきゅうと痛い位に抱き締められて、頭が混乱する。
一体、離れている間に何があったんだろう!
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