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03.嵐と雨の守護者

バタンと重厚感のある扉が閉まった瞬間、私は溜め込んでいた息を大きく吐き出した。

楽しみにしていた海外旅行でとんでもない事に巻き込まれてしまった。
いつ帰れるのか、日本にいる両親にどう説明すれば良いのか。
頭を悩ませる事ばかりで、一体何から手を付ければ良いのかそれすらも解らなかった。

ただ唯一の救いだったのは、沢田さんがとても頼りになる人だったという事。
あの時だって彼がいなければ自分はどうなっていたのかもさえ解らない。

(でもさっきの沢田さん、とても不思議そうな顔をされてた)

部屋を出る間際の沢田さんの様子が思い出される。
ほんの一瞬だけ見せた、寂しげなあの表情。
何か気に障る事でも口にしたのかと更に落ち込み、ハァ…と深い溜息を零した時だ。
ポンと右肩に暖かな温もりを感じて私は顔を上げる。

「そんな心配そうな顔すんなって!
 この一件が片付けば、きっと直ぐ日本に帰れるだろうからさ」

するとそこには先程紹介された短髪の男性が立っていて…。
私が帰れなくて落ち込んでいると思ったのだろう。
励ますようにニカッと笑う彼を見ていると、自然と笑みが零れた。

「ありがとうございます。山本さん……でしたよね?」
「ああ、よろしくな」

まさに爽やかを絵に描いたような男性だ。
彼の笑顔に引きずられるように少しずつ気持ちが浮上するのがわかる。
そうだ。悩んでいても私にはどうする事も出来ないし、何も始まらない。
それならば出来る事から始めてみよう。

「あの、私はこれからどうすれば良いのでしょうか?」
「ツナが言うには名前用の部屋を用意してるみてーだから、取り敢えずそこを使ってくれって」
「分かりました。それでホテルに置いたままの荷物は…。私が取りに戻っても──」
「駄目だ」

それまで黙ったままだったもう一人の銀髪の男性、獄寺さんが急に声を荒げた。
突然の事に驚き、私はビクリと肩を震わせる。

「…と、言いてーとこだが俺達が取りに行く訳にもいかねーしな」
「何でだ?荷物くらい俺達だけでも問題ないだろ?」
「アホか!ホテルとは言え、女の部屋に男のオレ達が入る訳にいかねーだろが!」

確かに既に荷ほどきを済ませてしまっている為、男性の彼らに荷物を任せるのは少し気が引けてしまう。
口調は乱暴だけれど、獄寺さんの気遣いはとても有り難かった。

「でもよ獄寺、今日ここに居るのって、男ばっかだぜ?」

そうだ。先程飲み水を持って来てくれた沢田さんも女性陣は出払っていると仰っていた。
流石に外出する際に貴重品は持ち出していたけれど、その他の必需品もなくては困ってしまう。
途方に暮れる私を見かねて獄寺さんは軽く頭をかくと、渋々といったように呟いた。

「あんま頼みたくねーが、姉貴に頼むしかねーか」
「ビアンキに?」
「ああ。丁度こっちに戻って来るっつってたからな。
 ……また飯作るとか、面倒な事言い出すぞ」
「それは…まあ、出来れば遠慮してーな」

不機嫌そうな獄寺さんと、乾いた笑みを零す山本さん。
どうして二人がそんな顔をするのか私には解らなかったが、今はその人にお願いするしかないという事だ。
私は獄寺さんに向かって頭を下げた。

「あの、宜しくお願いします」
「…仕方ねーな」

渋々ながら頷いてくれた獄寺さんに私は安堵する。

「ありがとうございます、獄寺さん」
「けっ」
「良かったな、名前」
「はい」
「──と、わりぃ。ツナの奴が名前で呼んでたから俺もつい名前って呼んじまって…」

苦笑いを浮かべる山本さんに私は「いえ」と笑顔で返す。

「私は名前で呼んで頂けて嬉しいですから」
「そっか。じゃあ遠慮なく呼ばせて貰う」

そう言って山本さんに優しく頭を撫でられ、胸がドキリとした。
沢田さんといい、山本さんといい、皆心臓に悪い事をしてくれるものだ。
あまり男性への免疫がない私には些細な事でも刺激が強すぎる。
火照った頬を悟られぬよう俯いていると、再び扉が開いた。


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あきゅろす。
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