18.二人の歌姫 ***
≪綱吉・雲雀side≫
同じ頃。雲雀は一人、静かな廊下を歩き続けていた。向かう先は此処最近の苛立ちの原因…。
沢田綱吉の待つ部屋だ。
バンッ!!
雲雀はノックも無しに乱暴に扉を開ける。椅子に座って書類に目を通していた綱吉は、入って来た人物の異常なまでの殺気に小さく溜息を零した。
「雲雀さん、せめてノック位して貰えますか」
「……何時まで僕を群れさせておくつもり」
「それは俺達とですか?それとも――」
「後者に決まってるよ」
カツカツと部屋の中に入って来る雲雀の手には、しっかりとトンファーが握り締められていた。
「群れるのは嫌いだ」
「知ってますよ」
此処まで殺気立つ雲雀を見るのは何時振りだろうか。綱吉も自然と身構えてしまう。雲雀の恐ろしさを彼自身が嫌という程理解しているからだ。
緊迫した空気が辺りに漂う。恐らく戦闘は免れない…。綱吉がそう覚悟した、次の瞬間だった。
「「…っ…」」
窓の外から名前の歌声が聞こえて来たのだ。二人は同時に動きを止め、澄んだ音色に耳を傾けた。暫くすると音は止み、再び室内に静けさが戻る。
「……あの子の為じゃなかったら、とっくに咬み殺してる所だよ…」
先に口を開いたのは雲雀だった。そしてそのまま扉の方へと戻って行く。
「……雲雀さん」
「気が変わった。もう暫く君の遊びに付き合ってあげるよ。…但しこれ以上風紀を乱すようなら」
コツリと足音が止まり、雲雀がゆっくりと振り返る。その瞳は―…。
「殺すよ……沢田綱吉」
本気だった。
バタン。扉の閉まる音を聞きながら、綱吉は椅子に深く腰掛け、高い天井を見上げた。
「…アイツの傍に居たいと思うのは、雲雀さんだけじゃないんですよ」
◇ ◇ ◇
綱吉の部屋を出て、再び廊下を歩き出す雲雀。
「雲雀様」
前方から嬉しそうに小走りで寄って来る揚羽の姿が、今は傍に居ない『彼女』の姿と重なる。
(僕の傍に居てもいいのは君じゃない――…)
『雲雀さん』
二人の歌姫
(……名前だ…)
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