──バタン。
もう何度目になるか分からない扉の開閉音が響く。
正午が間近に迫った頃には、流石の獄寺達の顔にも疲労の色が見え始めていた。
当初の予想通り、客人は歌姫の候補者に名乗りを上げる者ばかり。
女性自ら赴いた者もいれば、自分の妻や娘、親族を連れて訪れた者もいた。
しかし決定打となるような話題が出る事はなく、今に至っている。
まあ、名前と言う最重要候補者がいるのだから当然といえば、当然なのだが。
「そう言えば名前はどうしてるか聞いてる?」
今日は朝からバタバタしていて、彼女の顔を見ていない。
誰か傍に就いている者がいるのか心配していたが、
「先輩が護衛についてるって話だ。心配ないさ」
山本の返答に、綱吉は「そうか」と安堵の息を吐いた。
「了平と言えば、あいつが持って来た話はどうなったんだ」
リボーンの問い掛けに、室内が一瞬で静まり返る。
昨日綱吉の命を受け、イタリアへとやって来た了平。
けれど、本来ならば彼一人だけの渡欧ではなかった。
日本に居る、もう一人の守護者と共に訪れるはずだったのだ。
──ランボと連絡が取れない。
了平からそう報告を受けたのは、昨夜全てがひと段落ついた後の事だ。
『沢田から守護者招集の連絡を受けて探したのだがな。
イーピンにも聞いたが、ここ数日姿を見ていないそうだ』
確かにランボから何の返信もない事を訝しくは思っていた。
しかし、普段から連絡を寄こさない事もしばしばで、あまり深く気に留めていなかったのも事実。
現に、一緒に話を聞いていた獄寺からは、
『心配いりませんよ10代目。あのアホ牛に関しちゃ、今に始まった事じゃありません。
いつか何てストーカー紛いの女と問題起こして、一週間近く連絡つかない事とかありましたし』
そう楽観視されたくらいだ。
ただ、守護者招集の場に顔も出さないのは流石に可笑しい。
まだまだ子供だとは言え、守護者としての自覚は芽生えていると思っている。
妙な動きをしている奴らがいる以上、もし本当にランボの身に何かあったのだとしたら?
綱吉の脳裏に、小さく危惧の文字が浮かんだ時だ。
外が、やけに騒がしい。
厳密には廊下の方が、だ。
「…見て来ます」
眉間に皺を寄せた獄寺が入口に近づこうとした、次の瞬間、
勢いよくドアが開き、中に入って来たのは、
「沢田ぁぁぁぁぁぁぁあー!!!」
血相を変えた了平だった。
驚き、瞳を見開く綱吉に替わって、獄寺が怒鳴り散らす。
「ぅるっせーぞ芝生!テメーここで何してやがる!!名前の護衛はどうしたんだよ!!」
「雲雀に任せて来たから心配はない!それより、奴が…っ、奴がここに居たのだ!」
要領を得ない内容に、綱吉達は顔を見合わせる。
その時だった。
「──やれやれ、オレの事ですか」
開け放たれた入り口から聞き覚えのある声が響いた。
歳の割に低く、落ち着きのある声。
その場の誰もが声のした方角に目をやると、
「お久しぶりです、ボンゴレ」
牛柄のシャツを着こなす、たれ目の青年。
雷の守護者、ランボの姿があったのだ。
「おま…っ、アホ牛!今まで連絡も寄こさず何して──!!」
「お小言はやめて下さいよ、獄寺氏。今日はオレ、褒められるために来てるんで」
そう言ってランボは後ろを振り返る。
綱吉達もその視線を追いかけ、そしてその先に佇む、一人の女性を視界に入れた。
突然の乱入者に、警戒する綱吉達。
けれどそんな彼らをよそに、ランボが口にしたのは、耳を疑うような言葉で。
「この人が、この人こそが──本物の歌姫です」
齎された 情報
(名字名前は──…偽物だ)