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01.舞い降りた 歌姫

小さい頃、大好きだったおばあちゃんがいつも口にしていた言葉がある。

『名前、歌はね、世界を救うのよ…』

“歌は世界を救う”
その頃の私は幼くて、貴女の言葉の意味が良く分からなかったけれど、

でもね、おばあちゃん。

今なら…
今の私なら……
その意味が少しだけ、分かる気がするよ。



song for xxx
- 歌 姫 編 -



その日、母に頼まれ夕飯の買い出しに商店街まで足を運んだ私は、お店で二枚の福引き券を貰った。

「三枚で一回なんだけど、今日までだから一枚サービスね」

壁の張り紙に目をやると、確かに今日が抽選の最終日。
お店のご好意で参加資格を得た私は、夕焼けの町を抽選会場目指して歩いた。
会場にたどり着くと既に撤去作業の最中で、私は慌ててスタッフさんに声を掛け、券を差し出す。
周りを見回しても人は少なく、時間的にも私が最後のようだった。

「ではこの箱の中からボールを一つ引いてください」

最近の抽選会にしては珍しく、ぐるぐる回す抽選器ではなく、手を差し込むタイプのもの。
何でも最終日になって突然抽選器の調子が悪くなったらしい。

「上位賞がまだ出ていなかったんで、慌てて準備したんですよ」
「そうなんですか」

スタッフさんの話に相づちを打ち、私は箱の中に右手を差し込んだ。
これまでこの手の抽選会は全て参加賞止まりの私。
今回もおそらく期待を裏切らない結果になるだろう。

(ポケットティッシュにするか、お茶にするか)

貰って帰る参加賞の景品を吟味しながらグルグルと箱の中を掻き回していた時だった。

「!」

右手に何かが触れた気がしたのだ。
突然の出来事にビクリと肩を振るわせる。
その何かは私の掌にすっぽりと収まっていて、私はおそるおそるそれを引き上げてみた。

「お、大当たりー!!」

カランカランカランとけたたましい鐘の音が辺りに鳴り響き渡る。
私が手にしていたのは、夕日を浴びてキラキラと輝く金色のボール。

「おめでとうございます!一等は海外旅行!イタリアの旅でーす!!」

スタッフの人の声が遠くに聞こえた。
まるで時間が止まったかのように私は運命のボールを握り締めたまま、その場に立ち尽くしたのだった。


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あきゅろす。
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