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ここは平成時代



いきなり涙を流した私に気づいたのか、相手は慌てふためいた。私は、「大丈夫です」と一言言い、一先ず先に、首を治療する為にブレーカーを上げ電気をつけた。

薬箱を出すと、相手は気まずそうにしながらもちらちら私の様子を見ている。目が合うと、私は苦笑いしか出来ず返すと相手はバッっと効果音が付きそうな程に逸らされた。
でも相手も自覚しているらしく、「すまない」とか「ぁ、う…」と声を漏らした。


治療も終わり、お話をしてみる事にした。



「あの、貴方の名前を聞いても…?」

「俺は、竹谷。竹谷八左ヱ門。」



八左ヱ門……
随分古風な名前だなと、失礼ながら思った。
今時、〜門とか付く人いないから尚更だった。お茶のCMでもあるまいし。
物思いに耽っている私に、竹谷くんが話かけた。



「あのさ、安藤。」

「?」

「ここは一体どこなんだ?」

「…ぇ?」

「ここには、俺が知らない物ばかりある。外ももう暗いのに、ここは何故かこんなにも明るい。」



「この明かりは、蝋燭の火ではないだろ?」と、竹谷くんは私に尋ねた。
確かに、竹谷くんは名前も古いし格好だって現代とはかけ離れている。だが、それでも歴史の教科書や時代劇などで見慣れている格好でもあった。名前だって今までの言動だってそう。
だから、竹谷くんがそう聞いても私はまったく違和感など感じなかった。



「うん、竹谷くんの言う通りこれは“ 蝋燭の火 ”なんかじゃないの。」

「じゃ、ここは一体っ!」

「…ここは、平成の時代。竹谷くんの言動から見ての私なりの推測だけど、……ここは竹谷くんのいた時代とは違う。」

「そんなっ…!」

「多分竹谷くんは、過去の時代からここに飛ばされたのだと思う。」



そう、つまりこれは“ 逆トリップ ”



「…俺は、元の時代に戻れるのか?」



不安そうに私に聞く。
私だって、分からない。だけど、還らせてあげたいのは事実。これは、本当の気持ち。
そして、私はその事については何も言えない。



「…ご、めんな、さい。……私、その。」

「……。」

「何も…知らないん、です。……だけどっ!」

「!」

「だ、けど…私も手伝います。竹谷くんが、帰れる日まで……」



そう、帰れる日まで。
竹谷くんを追い出す訳にもいかないし…
友達の場合、そんな事しないで警察行きにするかもしれないけど。生憎私は、そんな相手が訳も分からない状況で苦しんでいるのに見捨てるなんて出来ない性格だからか、私は親が1ヵ月後に旅行から帰って来るのを気にせずに切り出した。



「それ…って、本当に良いのか?」

「うん。だって、このまま追い出したら本当に警察行きだと思うし。」

「…警察?」

「悪行をした人を捕まえて、取り締まりする所かな。」



「おぉ、…そうか。」と思いつめた顔し、挙句の果てには青い顔をしていた。
…あれ、私何か言ったかな?
まぁ、これから一緒に過ごす事になるし…



「一先ず、宜しくお願いしますって事で。」

「…ぁ!ああ、こちらこそ宜しく頼む。」



彼は、笑顔でそう言った。
その笑顔に見惚れたのは彼には内緒。


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