Promise Ring[月森(コルダ)]
金色のコルダ、月森蓮夢。
コンクール後、恋人同士な二人。
皆から私の影響であなたの音が変わったと言われる度に
少しくすぐったくて、誇らしい気持ちになった。
不器用なあなたが私だけに見せてくれる笑顔や言葉が
私を幸せな気持ちにさせてくれる。
あなたが私のヴァイオリンが好きだと言ってくれるから
ヴァイオリンを奏でる事がが楽しくなる。
何気なく、あなたが向けてくれる特別な想いに
毎日、あなたを好きになる。
でも、私は欲張りだから
もっとあなたの特別になりたいと思ってしまう。
大好きだから触れ合いたいと思うのは当然でしょう?
あなたも同じ気持ちでいてくれるかな?
ねえ、あなたの気持ちをもっと聴かせて
そして、もっと私に触れてほしいの。
あなたと離れている間も不安になったりしないように──。
私がヴァイオリンを始める切っ掛けになったコンクールが終わってから数カ月。
最愛の人…蓮くんと付き合うようになってから初めて、蓮くんを想う気持ちに対して不安を感じた。
「え…? それって本当なの?」
「私も信じたくはないけどさ、本人はともかく教師達は本気みたいよ。」
呆然とする私の前にいるのはコンクールを通じて仲良くなった親友の天羽菜美。
報道部所属の彼女から聞いたのは耳を疑いたくなる言葉だった。
『月森くんがウィーンに留学するらしいんだよ。』
蓮くんくらいヴァイオリンが上手なら有り得ない話じゃない。
私だってこういう可能性を考えてなかった訳じゃない。
けど、多分どこかで自惚れてた。
蓮くんが私をおいて行く筈がないって……。
私に引き留める権利なんてない。
だからこそ、有り得ないって思いたかったんだと思う。
「ねぇ、どうするの?」
考え込む私を菜美が心配げに見つめる。
「…どうもしないよ。
蓮くんの道は蓮くんにしか決められないもん。」
本音を言えば離れたくない。
けど、蓮くんの可能性を消すような真似はしたくないの。
私は“私”以上に蓮くんが好きだから。
私は菜美に精一杯の笑顔を見せた。
その日の昼休み、私は蓮くんと共に昼食をとっていた。
コンクールが終わってから日課になっている蓮くんと過ごす時間。
楽しいはずの時間はどこか上の空で。
「…どうかしたのか?」
「え…?」
他愛ない話をしていたら急に問われて驚いた。
「俺の気のせいかもしれないが、無理をしているんじゃないか?
君の笑顔が悲しみを含んでる気がしてならないんだ。」
「…っ……。」
蓮くんといると留学の話が頭を離れない。
だけど、確証はないし確かめるのも怖くて、知らないふりをしてたのに。
気付いてくれて嬉しいのに、悲しい。
「やはり何かあったんだな?
俺には話せない事なのか…?」
心から心配をしてくれる蓮くん。
でも、今は優しさが残酷だよ。
「ライラ…?」
「……ウィーンに、留学するって…本当…?」
私は蓮くんの顔が見れなくて、俯いたまま震える声を懸命に隠しながら聞いた。
「っ…どこでその話を…?」
「本当、なんだね……。」
動揺した蓮くんに私の問いが本当なのだと確信を持った。
「いや、確かにそんな話は出ているが。」
「行くよ、蓮くんは。
だって、ヴァイオリンが好きでしょう?」
否定しようとする蓮くんに私は笑顔を向ける。
ねえ、私…ちゃんと笑えてるかな?
「ライラ…まだ正式じゃないのは本当だ。
それに正直、迷っている……。」
ぎゅっと蓮くんが私を抱きしめる。
その腕は微かに震えていた。
「不安があるのも確かだ。
だが、そんな事は問題じゃない。何事も最初は不安を感じるものだ。」
そういう考えは蓮くんらしいなって思う。
「だが、君と離れると思うと躊躇ってしまう……。
こんな事は初めてで、どうしたら良いかわからない。」
蓮くんの言葉に胸が締め付けられる。
そう思ってくれて嬉しいのに苦しいよ。
蓮くんの足枷になっているのが辛い。
真っ直ぐな蓮くんを迷わせる自分が悲しい。
応援したいのに、背中を押したいのに、愛しさが寂しいと悲鳴をあげる。
私は…私はどうしたいの…?
「…蓮くんは行くべきだと思う。」
“どうしたい?”と自分に問い掛けたら、自然と出てきた言葉。
それで改めて実感する。
「私は蓮くんと蓮くんのヴァイオリンが好き。」
蓮くんの音色を思い出すだけで笑顔になる。
「ライラ……。」
「だからもし、留学の話が本当になったら行くべきだと思う。」
最終的に決めるのは蓮くんだけど、多分、私の事がなかったら蓮くんは迷わず留学してる。
だからこそ、その背中を押すのは私の役目だと思う。
「蓮くんには無限の可能性があるんだもん。
私はその可能性を信じてるから。」
蓮くんならきっと留学した先で新しい音を見つけられる。
「ライラ……ありがとう。」
蓮くんが微笑むのを見て私も微笑む。
こんな時間がなくなってしまうのは寂しくて悲しいけど。
「私、応援してるね。
離れてもきっと好きでいるから。」
笑顔は作れるのに視界がぼやける。
「すまない、ライラ。」
「え…?」
蓮くんの言葉にドキリと心臓がなる。
「俺が留学を終えるまで……待っていてほしい。」
でも、私に聞こえた言葉は予想とは反対で。
「すまない、君を束縛してしまうと言わないつもりだったんだが……。」
蓮くんの手が私の頬を優しく撫でてくれる。
「言わずに行けば必ず後悔するだろうから。
待っていてくれないか?」
再度、紡がれた言葉に私は泣きながら笑顔で頷いた。
その日から数日後の休日。
私は蓮くんと買い物に来ている。
というのも、蓮くんが。
「その、安物しか買えないと思うが……指輪をプレゼントしても良いだろうか…?」
と、照れながら言ってくれたから。
今日はその指輪を一緒に買いに来たって訳です。
本当はヴァイオリンを弾くのに装飾品は適していないけれど。
だからこそ蓮くんがそう言ってくれたのが嬉しかった。
「どうかしたのか?」
「ううん、何でもない。
指輪、良いのがあると良いね。」
「そうだな。」
私の言葉に頷くと蓮くんが手を差し出してくる。
私は差し出された手を自然に握った。
幸せで、昨日はあんなに不安だったなんて嘘みたい。
「蓮くんって魔法使いみたい。
いつでも私を幸せにしてくれるの。」
笑顔で言うと蓮くんは少し驚いて、照れたような笑顔を返してくれる。
「君の方が魔法使いみたいだが。
いや、俺にとって君は魔法使いではなくお姫様だな。」
自分の頬が熱くなるのを感じる。
蓮くんはたまにこういう言葉をさらっと言うから心臓に悪いと思う。
そんな会話をしていたら、いつの間にか指輪のコーナーが目の前にあった。
「君はどんなのが好きなんだ?」
「私はシンプルなのが良いな。」
色々と目移りしていると、ふと一つのペアリングが目に入る。
「「これ…。」」
ほぼ同時に同じリングを指差して、二人で小さく笑う。
「これにするか。」
「うん、これにしよう。」
「あ、すみません。これを…。」
蓮くんが店員さんに声をかける。
二人揃って指差したシンプルなペアリング。
それには音符の模様が上品に刻まれている。
ヴァイオリンが、音楽が出逢わせてくれた。
私たちにピッタリなそのペアリングのプレートには
“Promise Ring”
と書かれていた。
小さな細工がされていて、さくら貝のようにピッタリはまるのは世界に一つだけ。
どんなに遠く離れても心は繋がっている、と。
二人でリングを買って、少しくすぐったい気分になりながら、お互いの指にはめた。
「愛している、ライラ。」
「うん、私も蓮くんを愛してる。」
例え遠く離れても、この想いは変わらない。
時々、不安になる事もあるだろうけど。
あなたの存在が私を強くしてくれるから。
それから蓮くんの留学話が本格的になって
私達は離れている間の分までいるように少しの時間も一緒に過ごし
たくさん話して、照れながら触れ合って
心に刻むように音を奏であった。
……そして……
私たちは約束を交わし、少しの間のお別れをした。
離れている間は寂しくて泣いてしまう日もあるかもしれないけれど。
私達の心はずっと繋がっていると信じられる。
蓮くんのくれたPromise Ringを抱きしめて私は唯一人の愛しい人の帰りを待つ。
それから遠くない未来に、今よりも少し大人になった顔で二人は再会し
Promise ringはEngagement Ringに変化し
色々なメディアが取り上げる事になるのは、また別のお話。
初出2007.10.12.
再掲載2021.1.8. 戻る
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