きみとLoveSong[王崎(コルダ)]
金色のコルダ、王崎信武の夢。
恋人未満の二人。すごく短いです。
ただ一人の為に弾きたいと思った。
ただ一人きみだけの為に。
こんな気持ちは初めてで。
どうしたら良いのかなんて、わからないけど。
きみといるのは凄く心地良いから。
この気持ちと向き合ってみようと思う。
きみに会って少しずつ、皆が変わっていったように。
おれもきみに会って変わっていく。
誰でもない、きみの隣にいられるように。
争いは好きじゃないけど。
絶対に負ける訳にはいかないから。
「こんにちは、レインさん。」
放課後になって一番にきみに声をかける。
「こんにちは、王崎先輩。」
「……?」
何だか少し違和感があるような?
「あっ、ごめんなさい! つい、火原先輩がこう呼んでたから……。」
「ああ、そうか。
いつもレインさんは『王崎さん』って呼んでたから、何となく違和感があったんだ。」
「すみません。」
「あ、いや、ごめん。怒ったんじゃないんだ。
きみがそう呼びたいなら、おれは構わないよ。」
火原先輩が、って所に若干ひっかかるけどね。
「ありがとうございます。じゃあ、これからは王崎先輩って呼ばせてもらいますね。」
「うん。学校ではそっちの方が合ってるしね。」
「あはは、確かにそうかも。」
楽しそうに笑うきみが凄く可愛い。
「それより呼び方がうつった感じみたいだけど、火原くんとおれの話でもしてた?」
さりげなく、気になってる事を聞いてみる。
本当は火原くんと話してたって事実が気になるだけだけど。
「あっはい。去年のコンクールの話をしてたんですよ。
菜美…、天羽さんが写真を見せてくれたんです。」
天羽さんの名が出た事に二人きりじゃなかったんだと安堵する。
「じゃあ、天羽さんと火原くんと三人で話してたんだ?」
「はい。天羽さんって凄く情報通なんですよ!
参加者の私より詳しいみたいなんです。」
「はは、そうなんだ。確かに天羽さんは取材に凄いよね。」
こうして、きみと話すのはとても楽しくて自然と笑顔になる。
特に二人きりで話してる時間は特別になる。
「あっ、そうだ! 王崎先輩。」
「ん、何かな?」
「1つ、お願いしてもいいですか?」
「うん、どんな事かな?」
「その、一緒に合奏してくれたらな〜って……。」
きみの願いなら、どんな事だって叶えてあげたい。
きっと、どんな我が儘だってきいてしまう。
でも、きみがするのはいつも可愛いお願いだね。
「もちろん。おれからお願いしたいくらいだよ。」
「本当ですか!? 良かった。
じゃあ、何を合わせましょうか?」
喜ぶきみにおれも嬉しくなる。
「そうだね。今日は彩華系の曲にしようか。」
「はい!」
準備して頷くと、二つの弦の音が重なりあっていく。
それは一人では決して出せない音。
きみが奏でる旋律が、おれの耳に心地良く響く。
おれが奏でる旋律は、きみにはどんな風に聴こえるのかな?
きみの奏でる音なら、一日中聴いていたって飽きない。
きみが望むなら、一日中だって弾いてあげる。
ねえ、だから……どうか他の人には惹かれないで。
おれが奏でるLoveSongは、きみだけのものだから。
どうか、他の人にはきみのLoveSongは聴かせないで。
我が儘だって、わかってるけど。
願わずにはいられないから。
曲が終わりに近付いていく。
少し寂しい瞬間でもある。
弓が弦から外れ、暫しの余韻。
パアッと明るい表情のきみと瞳が合う。
「何だか今日は凄く気持ち良く弾けました!」
きみが嬉しそうな笑顔はおれに幸せをくれる。
「うん、おれもだよ。」
「本当ですか? 嬉しいです。」
「ライちゃんの音は、凄く心地いいから合わせやすいよ。」
「え…?」
「あっ!」
しまった。嬉しくて、つい愛称で呼んでしまうなんて。
「ご、ごめん。嫌だったよね、こう呼ばれるの……。」
慌てて謝るときみは首を横に振る。
「…いえ、嫌じゃありませんよ。」
優しいきみ、少しだけ甘えても良いかな?
「ありがとう。
良かったら、これからもライちゃんって呼んでいいかな?」
「はい、もちろんです。」
微笑んで頷いてくれるきみ。
思いがけず名前で呼べて嬉しい。
「あの、王崎先輩……。」
「うん、どうかした? ライちゃん。」
「あの、さっき私の音が心地良いって言ってくれましたよね?」
「あ、うん。ライちゃんの音、好きだよ。」
上目遣いに聞いてくる可愛いきみに今度はおれが頷いてみせる。
「華やかなのに澄んでいて、とても心地良い。まるできみそのものだね。」
話してるとみるみるライちゃんの顔が赤くなっていく。
もしかして、変な事言ったかな?
「あ、ありがとうございます。凄く嬉しいです。
私も……王崎先輩の音が大好きだから。」
大好き、の言葉に反応してしまう。
「嬉しいな、ありがとう。
でも、ちょっと照れるね。」
「ふふ、そうですね。」
「ね、ライちゃん。
もう一度、何か合わせようか?」
「はい、ぜひ!」
きみはいつも素敵な笑顔をおれに向けてくれる。
それだけで、おれはいつも幸せな気持ちになれるから。
このコンクールが終わったら。
きみに伝えてみようか?
今のこの気持ちを……きみに惹かれている事を。
きみだけのLoveSongを奏でながら──。
初出2005.10.29.
再掲載2020.10.26.
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