眠り姫に誓いを[枢(ヴァン騎]
ヴァンパイア騎士の枢夢。純血ヒロイン。
ヒロイン台詞なし。
出逢った時から強がりで
独りで何でも解決してしまうから
見ているだけの僕はもどかしくて
少しだけ、寂しかったんだ。
そんな君が僕に助けを求めるなら
全力で君の力になろう。
涙の化身を宿す紅い瞳に誓うよ。
僕が君の全てを守る──と。
「優姫、そこを退いてくれるかい?」
小さな肩を震わせながら両手を広げて道を阻む少女に優しく言い聞かせるような口調で話す。
「っ……!」
ブンブンと強く首を横に振る。
優姫が枢に敵わない事は誰もが知っている。
それでも、自分だけは、と後ろで静かに眠る少女の前に立ちはだかる。
「僕はライラを傷付けたりしないよ。」
苦笑混じりに言う枢。
優姫は苦しげに口を開く。
「だって! 枢さまが敵じゃないなら何でライラちゃんは眠りについたの!?」
激しい口調に枢の瞳が揺れる。
守るつもりだった、守れると信じてた。
誤算だったんだ、一人きりで李土と戦うなんて……。
僕の事は信用出来なかった?
僕を信頼してなかった?
聞きたい事は山程あるけれど。
枢はグッと拳を強く握ると再び優姫と向き合う。
「優姫、今は彼女を回復させる事を優先したいんだ。」
静かに話す枢に優姫が瞳を瞬かせる。
「…治せ、るんですか……?」
信じられない気持ちと信じたい気持ちが入り交じった震えた声。
枢は優しく微笑むと一つ頷いた。
「今度は僕が命をかける番だからね。」
その言葉に優姫はハッとする。
「まさか枢さまが犠牲になるつもりじゃ…?」
ライラを一番に愛している枢ならばあり得る事だった。
でも、その答えはNOで、枢はゆっくりと首を横に振る。
「そんな事をしたらライラに怒られてしまうからね。
例え死後でもライラに嫌われたくはない。」
「はい、それは私も…。」
同じだと頷く優姫。
それならばと優姫は続ける。
「じゃあ、どうやってライラちゃんを助けるんですか?」
「二人に協力してもらうんだよ。」
言うと影から現れたのは敵である筈だった、閑と壱縷。
「なっ!?」
再び優姫は彼女を守るように立ちはだかる。
「優姫、大丈夫だよ。
彼らは敵じゃない。」
「どういう事、ですか?」
訝しげな表情で問う優姫に枢が答える。
「彼らにとってもライラは大切な存在なんだ。」
ああ、と優姫は納得する。
本来は敵である存在すらも彼女に惹かれる。
そして、彼女の力になりたいと願うようになる。
仲間とは言い難いかもしれない。
だが、決してレインを傷付けはしない。
いつも、独りで解決してしまう彼女だからこそ、守りたいと思う。
スッと優姫が彼女の前から退く。
「ありがとう、優姫。」
「ライラちゃんの為ですから。」
きっと優姫もライラためなら、何でもするのだろう。
今はこの場にいない銀髪の彼と同じように。
枢は目で合図を送ると閑と壱縷もライラの側に歩み行く。
彼女を見つめる二人の瞳は確かにライラを愛していると語っていた。
優姫も静かに彼女の側に行く。
「私の力もいるんですよね?」
優姫の言葉に枢は小さく笑った。
「優姫もライラに似てきたね。
ああ、優姫の力も計算にいれているよ。」
ライラにはいつも見透かされていた。
それがどこか心地好くて。
彼女と同じように自分の考えを汲んでくれた優姫に微笑んでから、三人に合図を送る。
これは賭けに近いけど。
「必ず、成功させるよ。
ライラ、僕は君を救ってみせるから。」
だから……目が覚めたら、一番に僕に微笑ってほしい。
君の笑顔が一番好きだから。
君が愛しくて堪らないから。
「さあ、始めよう──。」
たった一人、大切な彼女を救う為に。
初出2020.7.29.
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