春! 桜! とくれば、やっぱりお花見しかないでしょ♪
って事で絶好のお花見日和の休日にお弁当を作ってお花見へとレッツゴー!
と、ここまでは普通なんだよね…。
問題は、私の両隣で見えない火花を散らしてるこの二人です。
「今日は良い天気で良かったですね。
ところで鷹士さん、仕事は良いんですか?」
右に私の恋人である梓馬さんこと柚木梓馬(さん)。
「ああ、ライラの為なら仕事なんてあっという間に片付けるさ!」
左に私の兄であるお兄ちゃんことレイン鷹士。
さっきから二人とも笑顔で会話してるけど、この会話……。
『うざいんだよ、お前は帰って仕事でもしてろ。』
『絶っ対! ライラと二人っきりになんてさせないからな!!』
と聞こえるのは私だけですか?
穏やかな休日をこの二人と過ごそうとしたのが間違いだったのか…。
「ほら、ライラ! 迷子になるなよ?」
「ライラさんはこう見えてもしっかりしてるから大丈夫ですよ。」
私に手を差し出すお兄ちゃんにそれを阻止(?)するような梓馬さんの言葉。
これって究極の選択?
ライラ、ピンチですよ!?
あぁ……二人の笑顔がかえって怖い。
私の今の状態は周りから見れば両手に花、私からすれば針のむしろです。
が、こんな所でくじけてる場合じゃない!
私の【お花見で友好を深めよう! 大作戦】(ネーミングセンス皆無なのは作者のせいよ)を成功させなくては!
頑張れ、私!
「あの、梓馬さんもお兄ちゃんも喧嘩はしないでね?」
私は勇気を出して恐る恐る二人の会話に割ってはいってみる。
「ライラ……兄ちゃんを心配してくれるのか?
ライラは優しいなぁ。」
「僕達は喧嘩なんてしてないから心配しないで。」
うんうんと感動するお兄ちゃんに、にっこり笑顔の梓馬さん。
まあ、外見上は穏やかだし、とりあえずこのまま突っ切ります!
ここまで来たんだからヤケです!
「という訳で…、三人で手を繋いで行こうね!」
「…何が“という訳”なのかわからないけど、それもたまには良いね。」
わあ、笑ってるけど梓馬さんのバックに黒いオーラが見える。
「ライラは優しいから一人だけ仲間外れには出来ないもんな。
たまにはこういうのも良いかもな。」
対して優しい笑顔で対応のお兄ちゃん。
うーん、さすがお兄ちゃん。
普段は暴走気味だけど、こういう所は大人だな〜、なんて思ったり。
「…ライラさん、何か言ったかな?」
べべべ別に梓馬さんが子供っぽいとか思った訳では!
というか、思考読まれてる!?
「あ、あはは〜…何も言ってないですよ?」
明らかに目が泳いでるよ、私!
「そう、なら良いんだけれど。」
その顔は絶対納得してないし!
まあ、良いや……うん。
この辺りは覚悟済みよ! 多分。
「あ、あの辺りが良いんじゃないか?」
私と梓馬さんがそんなやり取り(表面化はないけど)をしていたら、お兄ちゃんが満開の桜を笑顔で指差す。
「うわぁ、凄い。綺麗!」
思わず感慨の声をあげてしまう。
満開の桜に辺りは桜吹雪。
うーん、やっぱり春といえば桜だよね。
私は我慢しきれなくて二人の手を離すと桜の近くに駆け出す。
「あ、ライラ! 走ると危ないぞ!」
心配性のお兄ちゃんの言葉に私は振り向いて。
「大丈夫だよ! 二人も早く!」
早くおいでと手を振る。
「全く……あいつはたまに子供っぽくなるな。」
梓馬さんが小さく笑った気配がして目線をやれば、眼差しがとても優しくてドキッとする。
私は顔が赤くなるのを隠すように二人に背を向け、桜を見上げる。
(桜がいつもより綺麗に見えるのは二人が一緒だからかな?)
なんて、こっそり思う。
本当なら梓馬さんか鷹士お兄ちゃんか一人を連れてくるべきだったんだと思うけど。
「桜、綺麗だな。
桜の中にいるライラの方がずっと綺麗だけどな!」
よく暴走するけど、誰より私を大事にしてくれる優しくてちょっと(かなり)シスコン気味なお兄ちゃん。
「本当だね。桜の中にいるといつにも増して綺麗に見えるね。」
(梓馬さん……桜のお陰で綺麗に見えるとか言いたいんでしょ?)
意地悪だけど、私にだけ本当の自分を見せてくれる梓馬さん。
二人とも大切で大好きな私にとってかけがえのない人。
私は踵を反して二人の方を向く。
「二人とも大好き!」
きっと今の私の頬は桜色。
すっごい恥ずかしいけど、桜の魔力って事にしておこう!
「ライラ……兄ちゃん、嬉しいぞ!!」
「きゃっ!? お兄ちゃんったら。」
ふるふると感動してると思ったらガバッと抱き着かれてビックリした。
「本当に……いつもお前の行動には驚かされるな。」
私の耳元で小声で囁き、手の甲にキスを落とす梓馬さんに私の顔はきっと林檎みたいになってる。
「どうしたの? ライラさん。」
梓馬さんがお兄ちゃんに見えないようにニヤリと笑う、絶対わざとだっ!
「どうした、ライラ?
熱でもあるのか?」
顔を真っ赤にした私を心配げに見ながら額と額をくっつける。
「お、お兄ちゃんっ!?」
こ、これは天然だ!
でも、色んな意味で恥ずかしい!
「何でもない!」
ごめんなさい、やっぱり私にこの二人の相手は無理です!!
私は全力で二人から離れると桜の木の後側へと走る。
落ち着け、私…。
「おーい、ライラ〜?」
「いきなり走り出して何やってるんだ、ライラ。」
ひょいっと両側から二人が覗き込んでくる。
梓馬さんは私を挟んでお兄ちゃんから離れてるから地だ。
「う〜……うん、桜を楽しもう!」
私はまた二人の手を握る。
驚きながらも握り返してくれる二人に自然と笑顔になる。
きっと凄く贅沢なんだろうけど。
ずっとこんな風に一緒にいられたら良いな。
「梓馬さん、お兄ちゃん、また来年もお花見しようね!」
「ん? ああ、ライラが望むなら、兄ちゃんいつでも準備万端だ!!」
「もちろん僕も賛成だよ。
(本当は俺としては不本意だが……まあ、たまにはお前の我が儘に付き合ってやっても良い。)」
満面の笑顔のお兄ちゃんと建前返事の後に私に耳打ちする梓馬さん。
きっと二人なら私の我が儘にずっと付き合ってくれるんだろうな、とか少し自惚れてみる。
「約束ね!」
綺麗に誇らしく咲く桜と潔く華麗に舞う桜吹雪の中で交わした約束。
いつまでも、こんな幸せが続きますように──。
そっと心の中で願った、ある晴れた春の一日でした。
2007.5.16.初出
2020.05.01.再掲載
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