[携帯モード] [URL送信]
ハートシェア
なぎさの恋の凪沙の夢。
ヒロインは神に愛されている天使、凪沙は死神設定。



予感が、していたんだ。

僕にそういう類いの力はないから
予想、だったのかもしれない。

君がどこかへ行ってしまうんじゃないかって。

そんな予感に怯えていた。




「凪くん!」

「っ…。」

考え事をしている最中に肩をポンッと叩かれて驚いて振り返れば

「…ヒロインさん。」

大好きな君がいた。

「む…さんはいらないって言ってるのに。」

わざとらしくプクッっと膨らませた頬が可愛い。

滅多としないような表情をしてみせるのは僕に元気がないと気付いたからだろうか?

そのさりげない優しさが愛しい。

「まだ慣れなくて……ちゃんと練習してるから。」

僕の為に…なんて、勘違いかもしれない。

それでも安心させたくて、微笑んでみれば

「ふふ、練習がいるんだ?」

綺麗な笑顔が返ってきて鼓動が高鳴る。

「僕、待ってるからね?」

ちゃんと名前だけを呼んでくれるのを。

言外にそう言いながら君の人差し指が僕の唇に触れた。

君は簡単に、何でもない事のように僕に触れる。

忌み嫌われる死神である僕にさえ。


ああ、なんて君は――。



自らの犠牲をものともせず万物に優しい君。

それが僕だけのものでない事が少しだけ口惜しいけど。

自らを顧みない君を僕が守りたい。

何からも誰からも、それが例え神であろうとも。



僕は自分の片耳についているイヤーカフスを外した。

「…?」

唐突な行動に小首を傾げる君に笑みを向ける。

これは罪かもしれない。

けど、君を守る為ならば喜んで罰も受けよう。

「これ、受けとってほしい。」

「イヤーカフスだよね?
綺麗…良いの、貰っちゃって?」

「…っ…。うん、貰ってほしいんだ。」

「ありがとう!」

差し出したイヤーカフスを受け取りながら向けられた笑みに涙が出そうになる。

君を守る為の行動ですら君は僕に幸福をくれる。

「ヒロインさん、僕がつけても良いかな?」

「もちろん!」

無防備に笑って頷く君の耳にイヤーカフスを装着する。

「大事にするね!」

「うん。
髪で隠してると二人の秘密みたいでくすぐったいな。」

「あ、本当だ。
ふふ、じゃあ隠したままにしておこうかな。」

悪戯っぽく笑う君。

許して。
君がそう言ってくれる事を予想しての言葉だったんだ。

これで君を守れる。
それが嬉しいなんて、やっぱり僕は悪側のものなんだな。

なんて、自己嫌悪に落ちたりしない。

悪側だからこそ出来る事があると気付かせてくれた君が好きだから。


「あっ、僕、神様に呼ばれてるんだった!
ごめんね、凪くん。」

「ううん、大丈夫だよ。引き留めてごめんね。
じゃあ、また。」

「うん、またね!」

手を振りながら走り去る君を笑顔で見送れば

「信じらんな〜い!」

見知った顔が声を上げる。

「……彼女がいる時に出て来なくて感謝してるよ。」

「だって、あんな幸せそうな顔見たらさ〜。」

「幸せ、か。
まさか綺麗なんて言ってもらえると思わなかったな。」

思い出すと自然と顔が綻ぶ。

「ぼくにはわからないな〜。
きみ、自分の魂半分を他人に渡すなんて正気なの?」

心底信じられないとばかりの表情をする燈穂に苦笑する。

彼は数少ない僕と会話する一人。

妖精は気まぐれだからかもしれないけど、僕にとっては貴重な存在だ。

だから、本音を話した。

「彼女を…ヒロインを守る為ならなんてことないよ。
というか、良く知ってたね?」

「そりゃ知ってるよ〜、ぼくらは半分はきみ達側なんだから。」

「そうか、妖精と精霊は違うんだっけ。」

「そうそう。
といっても妖精が悪魔側についた事ないけどね〜。」

それは仕方ない、妖精は美しいものが好きだから。

「にしても、そこまできみが入れ込む相手なんて興味あるな〜。」

「……あげないよ? いくら燈穂でも、ね。」

「うわ、怖っ! やーん!」

あー…逃げる事ないのに。

「ふふ、君にもいずれわかるよ。
彼女に出逢えば惹かれずにはいられないだろうから。」

澄んだ風に吹かれながら瞳を閉じ自分の罪を思う。



僕ら死神がしているイヤーカフスは鎌になる魔法具。

そして、魂を狩る死神は相棒である鎌へと自分の魂の半分を移す。

つまり死神の相棒である鎌は死神の魂半分という事になる。

僕の魂半分、イヤーカフスをその身に装着した彼女は悪の力を使う事が出来るだろう。

僕のした事は彼女を天使という存在から遠ざけるかもしれない行為だ。

けれど、神の異様な執着が形になった時

きっと僕の力は役に立つ。

それに彼女ならば僕の力を使いこなせると信じている。

イヤーカフスにも鎌だけでなく彼女に合う様々な武器に変わるように命令した。

己の身体への負担は図り知れないが、彼女を守れるなら易いものだ。

「……ヒロインがいつも幸せでありますように。」

誰に願うでもなく口にした祈りは
言霊となり宙に溶けて消えた。



例え二人、離れ離れになってしまっても心は常に傍にいるよ。



END.

戻る

[*前へ]

3/3ページ


あきゅろす。
無料HPエムペ!