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繋ぎ、繋ぐ物語




 他の国を横切るとき、それは命懸けと言えるだろう。たとえその国に用がなく、ただ通り過ぎるだけだといっても。その国は他国の忍が入ったとして攻撃を仕掛けてくるのは当たり前なのだ。通り過ぎるだけだとしても情報を得ることはできるのだ。この時代において情報は一番の武器と言えるだろう。


 そんな命がけの中、桜姫は新たに竜という情報を携えて()たずさえて奥州へと帰還していた。


 「政宗様」


 もう夜遅く、月見酒を楽しんでいた主の背後に降り立った。


 揺れる杯にともなって映る三日月が歪む。


 「桜姫か、どうだった?」


 杯に視線をおとしたまま、楽しそうに問いかけた。


 「桜が咲いていたため忍で回ることができず、農民の姿だったので城下町だけしか回れませんでした。民の様子は不安なとなく、笑みが溢れていました。それと・・・」


 「Ah?なんだ?」


 途切れた言葉にやっと主―政宗が振り向いた。


 「・・・竜と呼ばれ、長曾我部に尊大な態度をとる、私より年下らしき少女がいました。」


 「・・・そうか。騙されている様子は?」


 政宗は元親を心配している様子だ。
 それもそのはず政宗と元親は幼き頃からの知り合いだからだ。


 「ないようです。・・・・これから再び四国に向かいますか?」


 「いや、いい」


 ちゃぷん、杯を円を描くように回す。


 コクリ、冷たいお酒が喉を通る。


 「ご苦労だった、桜姫。顔を上げろ」


 「いえ、まだ報告書も書いておりませんゆえ」


 頭(こうべ)を下げたまま目を細めた桜姫に気づくことなく政宗は続ける。


 「いいから。・・・いや、もう少しいろ」


 「・・・はい」


 頭(こうべ)を上げ、その位置に座る。


 「Shit!隣に座ればいいじゃねぇか」


 「いえ、私は忍なため・・・・」


 「失礼いたします。情報が入りました」


 ふいに響いたのは第三者の声。しかし二人とも気づいていたのか驚いた様子はない。桜姫の左となりに黒い忍装束の男が膝まづいていた。


 「何だ」


 「武田が今川を攻め、討ち取ったり、と」


 もたらされた情報に二人は驚きを示した。領主である政宗と忍である桜姫が、だ。


 「Ha!!おもしれぇじゃねぇか。武田のおっさんよぉ」


 ニヤリと釣り上がった口元が楽しそうに歪む。


 「武田に偵察へ向かいますか?」


 黙っていた桜姫がそう進言した。


 「いや、狼。お前が引き続きやれ。桜姫はご苦労だった。ゆっく休みな」


 それ以上の言葉は聞かないと、酒を煽った。


 「・・・はい」


 「御前失礼します」


 二つの影は消え去った。


 ヒラリ、


 まだ緑の梅の葉が杯に舞い落ちた。



fin



090421 執筆
090425 更新 哀


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