繋ぎ、繋ぐ物語
52
彼女は、一度出会っていた。
全てが紅く染まる。夕暮れ時の海よりも余程美しい紅。
鮮烈だった。
煌びやかな世界は、実際は艶めかしく、おどろおどろしいと知った時よりも、末恐
ろしかった。しかし、身を以って刻まれた恐怖を、一瞬で塗り替えた新たな恐怖は、
畏怖の念に変わった。
この国に坐します神々のように、凄絶に輝いていた高貴な瞳は、何一つ変わってい
なくて。
彼女は、安堵のため息をついた。
貴方は覚えていないだろうけれど。私は覚えている。貴方が私に与えてくれたもの
は、この身を全て捧げようとも充分に返すことなど出来ない程のもの。
貴方は覚えていないだろうけれど。私が貴方に仕える理由は、ただ一つだけ。私に
は、それだけで充分だ。
090621 更新
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