繋ぎ、繋ぐ物語
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きっと彼女になら、痛みさえ感じず、死ぬこともわからず、どこの誰かも知らずに殺されるだろう。成実は目の前で、残像さえ残さないで一瞬で消え去った桜姫の背を見ながらそう考えた。
確かに彼女が敵でなくて本当によかった。もし敵ならば・・・。成実が漏らした言葉に綱元はそこまで考えてふと身震いをした。
「・・・?どうしたんだ?綱元、」
同じく横で桜姫がいた場所をぼんやりと見ていた綱元が身震いをしたことに成実は訝しげに視線をやった。
「いえ、もし桜姫が敵だったらと思いまして」
己が漏らした言葉によってもしも、のことを考えた綱元に眉をひそめた。
「確かに桜姫が敵だったら怖いけどさ、でもまずそんなことは絶対に起きないからんなこと考え出て無駄だって」
彼らは忍がどのような感情を持ってに主に従うか知っている。故に彼女は主に絶対の忠誠を誓い、それが結果、彼女がどのような行動をとるかも予想はできる。
彼女は主である政宗に不利なことは絶対にせず、己の命よりも政宗の命を取る。どんな危険な任務でも100%の確率でこなし、また予想以上の結果を叩き出す。
政宗の父、輝宗の代から仕えてきたと言うが、それならばとても小さい頃のことだろう。主が代わってもそれに変わらずの忠誠を誓っているのだから。
「ええ、彼女が敵にまわることは万が一でもありません。しかし、元から敵として出会っていたならば、・・・・私は知らずに殺されたでしょう」
まっすぐと反らすことなく桜姫がいた場所を見つめた綱元の眼には何が見えているのだろうか。
綱元の言葉について色々な思いを巡らせながらも頭の片隅でぼんやりと思った。
「彼女と敵として出会ってたら、俺は勝つことはできないだろうな」
彼女に殺されることは考えたくない。なぜだかそう思った成実は綱元と同じ言葉を使わずに、わざと敗北の言葉を匂わすように言った。
「・・・・彼女は不思議な存在だ」
忍以上に存在感がなく、そこに存在することに気づかない時もあれば政宗の隣に並んでいてもその存在を見失わない時もある。
今まで見たことのないタイプの人間でこれからも現れることはないだろう。
忍だがなぜか頭に残る本当に不思議な存在だった。
090611 執筆
090616 更新 哀
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