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繋ぎ、繋ぐ物語
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 今すぐにも飛び出していきそうな成実に、「主様から『城を守れ』と」、と伝えると何事もなかったように消え去った。そして成実達二人も、何事もなかったように見送った。


 そう、何事もなかった、ように。


 彼ら二人は桜姫の表の顔である女中の凪螺とはある程度仲が良い。どれ程仲が良いのかはそれぞれ違うが。


 しかし他の女中と比べれば付き合いは長く、また信頼もしている。


 そんな彼らは、間近に降り立った桜姫の姿を見てもなにも違和感を感じることはなかった。凪螺に似ているとは寸分とも思わなかったのである。


 これは二人に気配を感じさせない桜姫の力がすごいのか。それとも二つの仕事の顔を上手く使い分けているからなのだろうか。


 しかし女中時の凪螺が作られた性格かと言われると、それは違う。彼女は必要以上に偽りを言わない。彼女が思わなかったことを故意に、言うことはない。


 故に仕事柄、言えないこと、言わなくてはならないこと以外、彼女の言葉は本心なのである。たとえ言い方ひとつが違っていたとしてもその言葉に含まれている意味は決して偽りではない。


 確かに彼女の本当の性格は、本性はどっちだと言われたらそれは桜姫の方だろう。そしてその名も彼女の本名だ。しかしそれでも凪螺も彼女であり、彼女の一部分であることに代わりはない。


 二つの彼女を同一人物だと発見することができないのは、やはり彼女の力なのだろう。


 桜姫が去った成実の執務室。成実がポツリとこぼした。


 「・・・俺、桜姫が敵じゃなくてよかったと思う」




090610 執筆
090614 更新 哀


あきゅろす。
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