繋ぎ、繋ぐ物語
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成実達のもとに、小姓である竜朗からお茶を運ばれてきて、それを片手にたわいもない話をしていたときのことだった。
「失礼いたします」
成実達の背後にひとつの影が降り立った。
声をかけられるまでその気配に気づくことなかった二人は驚愕の表情を露にして後ろへ振り返った。傍に控えていたそれぞれの得物を手に。
「っ、あぁ。桜姫か」
その影の正体をその目で確認して納得が言ったように頷いた。綱元も、声に出してはいないが納得したように頷いていた。
二人が納得をしたのはそれは桜姫だったからだ。現在、伊達家の忍衆、通称黒脛巾の次期頭領と謳われる桜姫だから納得したのだ。現在の頭領と互角か、はたまたそれを上回るか。伊達の中では密かに噂されている程の力の持ち主ならばそれは頷けることだった。
「まことでございます。・・・主様(あるじさま)から伝言でございます」
己を桜姫だと認めた影はそのまま報告を続けた。
「現在、相手方に頼まれ事をされまして足を止めております。故に帰還が少しばかり遅くなるかと」
頼まれ事と聞いて眉をひそめた二人。それを感じ取った桜姫も頭巾の下で同じように眉をひそめた。
「頼まれ事とは何だ」
声は隠すつもりのない不機嫌さが表れている。
「南方の村にて農民が年貢を滞納しているとのこと。農民が武力を準備していることを確認した相手方は主様におたよりになさった」
普段柔和な綱元さえも表情に不機嫌を露にしていた。しかしそれも仕方がないことだ。
農民が年貢を滞納しているのは相手方、つまり蓮宮家が重く年貢をとり、力でもってねじ伏せているのだから。
「ちっ梵に力頼りかよ。都合のいいやつ」
すぅと目を細め、眉は潜めている。雰囲気は殺気立っていて、今すぐにも飛び出していきそうだ。そんな成実とは裏腹に、不機嫌さはなりを潜め、普段通りの綱元。しかし少しでも彼を知っている人が見れば、無表情の中に見え隠れしている怒りの表情がわかるはずだ。
「・・・・・」
成実の呟きに桜姫は何も反応することはなかった。
090610 執筆
090612 更新 哀
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