[携帯モード] [URL送信]

繋ぎ、繋ぐ物語
28

 親貞と親泰は、岡豊城から遠くの夕日を眺めていた。

「兄上」

 何となく、親泰が口を開いた。

「如何して兄貴は、自分の気持ちに気付かないんだろうな」

 不思議そうに呟いた弟を見ながら、親貞は兄を思い、目を細めた。

「……多分、本当に大切だからじゃないかな。…兄上は、今まで女に対してそんな感
情を抱いた事がないから。でも、大丈夫だ。気付かないのなら、僕らが気付かせばい
い」

「…そっか」

「そうさ。僕は、あまり竜殿の事は知らないけど、彼女が真に何を望んでい
るのかは知っている」

 瞑目し、竜の奥深くに潜む輝きと、暗闇を思い浮かべた。

 彼女は、これからの流れに重要な役割を担う事となってくると、親貞の中で直感が
鳴り響いている。

 それは、元親にも例外ではない。寧ろ、竜という存在が呼び起こす影響
は、元親にこそ表れるかもしれない。

 これからについて、親貞が瞑想に耽っている中、親泰はとある事を思い出してい
た。

 それは、奥州独眼竜のところだ。

「……何か似てるよなぁー」

 誰に似ているのか思い出そうとして、深く頭が項垂れる。

「誰に似てるんだっけぇ…?」

「何か言ったか」

 親泰の呟きが、瞑想の中にいた親貞の耳にも届き、親貞は思考の淵から頭を持ち上
げた。

 親泰が、先程までの疑問を口にすると、親貞は、わかったように直ぐに頷いた。

「あぁ、凪螺だろ?」

 今は女中をやっている凪螺を思い出し、親泰は手を打った。

「あー!凪螺だ!……そうだそうだ。如何して思い出せなかったんだろ」

 親泰の言葉に、親貞が噴いた。

「な…、ど、如何したんだよ、兄上」

 驚いた目で兄を見つめている親泰。実は彼、初恋をした相手が凪螺なのであ
る。無論、既に儚く散った淡い恋と化しているのであるのが。

 親貞にとって、この偶然は面白くてしょうがなかった。

 そうなのだ。これが如何して笑えまいか、いや、笑える筈だ。

「ちょ、兄上!何時まで笑ってんだよ。何でそんなに笑うかな。……あ!」

 と、二つ上の兄が笑い続ける理由に、思い当たる節が浮かび上がり、親泰は赤面し
た。

「あ、あ、兄上!!…そ、そんなに笑う事ないじゃないか!偶々、似てるだけだ
ろ!?それにさ、失恋とかそん…偶々忘れてただけだよ!――――いい加減、笑うな
あ!」



 この暫くは、親貞の笑い声と親泰の怒声が響き渡り続けたとか……続かなかったと
か。






090528 更新


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!