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繋ぎ、繋ぐ物語
25



 城内に入り、喜多がいると思われる台所へと向かう。長い廊下を歩けば一階だからかきれいな庭が広がっているのが見えた。


 梅が散りはじめてだいぶたった。もう、青々とした緑色の梅の木。もう少しすれば桜が咲くことだろう。風流な桜を思い目を細めた。


 「凪螺、やっと来たのね」


 先の曲がり角から喜多の姿が見えた。凪螺がその姿を見たと同時に喜多も凪螺に気付き、凪螺に声をかけた。


 「ごめんなさい」


 遅れたことにどのような理由があれど、遅れたのには変わりはない。弁解は聞かれなければ言ってはならない。それが常識だ。


 凪螺は時間通りにつくように来たが、実際は遅れたので素直に謝った。


 「まぁ、凪螺のことですから何かあったのでしょうね。・・・殿から聞いています。今日は1日いるそうですね。では着替えたら離れの掃除をお願い」


 「はい」


 先に仕事を与えられた凪螺は足早にその場を去る。遅れてしまった分、仕事をやる時間は少ない。それに離れだ。掃除するのは大変だろう。夕方には夕げの食事の支度もあるのだから。


 女中が寝泊まりしている部屋に入る。基本女中として1日いるならば凪螺はここで寝る。10年も続いているせいかだいぶ馴染み深い。


 手早くそこで着替えると、軽く着物をたたみ、来たとき同様足早に出ていった。






 「あら、?」


 喜多に言われて離れに意識を向けた時にはそこにある気配が誰のものかはわかっていたが己は今ただの女中なので襖を開けようとしたところで今気づきましたとばかりに声をあげた。


 「どなたでしょうか」


 襖にかけた手を引っ込めて中を伺いながら尋ねる。すると中からかたん、と音がし、暫くすればその襖が開いた。


 「片倉様でございましたか」


 姿を見せたのは片倉小十郎景綱。顔を見やれば不振な表情に染まっていた。


 「凪螺、なぜこんなところに?」


 この離れは普段人が立ち入らない場所だ。掃除は喜多と凪螺が5日に一度ほど来る程度だからそれ以外は人影がない。


 それは政宗があまり人を寄せたがらないのもあるが、皆ここに近寄りたくないと思うことがあるからだ。


 「掃除でございますが、・・・失礼ですが片倉さまは・・・?」


 小十郎や成実、綱元はたぶん近づくことにためらうことはないだろうがここに来る利用がない。ここは城から少し離れたところにあるからだ。


 「そうか。俺は昔の、な」


 凪螺がこの城に来たのは政宗が9歳の時だからほとんど政宗が抱えている闇を知らない。知っていることは死に至る程の病で生き残り、代わりに右目と、母がなくなった。ただそれだけだった。


 病を負ってから、直ってさらに一年ほどこの離れで暮らしていた。それも最近になって喜多から聞かされたことだ。


 桜姫としても政宗は病を見せることはなかった。幼い時も、輝宗から政宗の忍になっても、話すことはなかったのだ。それ故に凪螺も桜姫もほとんど知らないに等しかった。


 「何かお探しですか?こちらは私と喜多さまが掃除を致しますのでおっしゃってくだされば此方でお探しいたしますが」


 ここに来るのはほとんどないであろう小十郎。ここで政宗が養生していたとき世話をしたのは乳母だった喜多であり、小十郎は輝宗の徒小性だった。


 「いや、・・・お願いしよう」


 最初は断った小十郎だが、先程まで探していたことを考えると頼んだ方がいいだろうと考え、考えを改めた。


 「はい。探し物はなんでしょう?」


 にこりと笑って返事をすると、探し物を聞く。頭の中でこの離れにある物を片っ端から思い浮かべながら。


 「探し物は・・・」


 返ってきた言葉に了承の意を言うと、手早く小十郎を城へ返し、片付けながらそれを探すことにした。



090513 執筆
090515 更新 哀


あきゅろす。
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