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繋ぎ、繋ぐ物語
23



 成実が何を望んでいるか、桜姫は充分すぎるほどわかっていた。分かっていながら、女中という仕事を盾にした。


 「・・・ほんと、最悪ね」


 背中に突き刺さる哀しい視線。特攻隊長だなんて謳われながらその実、根はとても優しい人。


 「それでも、私は忍なの」


 暗殺をし、己を見た全ての敵を葬り去り、また、色の任務もしてきた。彼よりも汚れた、汚ならしい存在。
 桜姫はそんなふうに自分のことを認識してた。


 「こんな私が貴方に触れては、いけないの」


 近づいては、だめ。


 「私のことなんて忘れてしまった方がよいのに」


 伏せた瞳は固い地面を写す。そのまま歩いていればその視界に人の足が現れた。


 「?」


 歩みを進めていた足を止め、視線を上へとあげる。


 「綱元様!?」


 わりと近くに立っていたのは綱元だった。


 目の前に綱元がいることに驚いた桜姫だが、それよりも、こんな近くに人がいて気づかなかった己にとても驚いていた。


 「(ちっ)」


 おもわず舌打ちをしたくなる。そこまで注意力が散漫していただろうか。


 考えていたことは成実。そんなに彼のことを気にしていたのか。自分と彼は城仕えの女中と仕える主の部下な関係だ。それ以上でもそれ以下でもない。


 「凪螺殿?」


 成実に会って本来の桜姫が出てきてしまったらしい。考え込んでいた凪螺を不振に思った綱元が名前を呼んで、やっと己が桜姫に戻っていることに気づいた。


 「ごめんなさい。少し考え事をしていましたの。・・・綱元様、何かご用がございましょうか?」


 考え事は頭のすみに追いやって凪螺としての対応をする。そうすれば心配気だった綱元は安心したように笑った。


 「いや、何でもないですよ。凪螺殿が元気なさそうに歩いてきたものだから少し気になっただけですので」


 綱元は誰にでも敬語で話す人物である。彼もまた、優しい人。


 「お気遣いありがとうございます。私は大丈夫ですよ、綱元様」


 自然に顔が綻んだ。


 「そうですか。考え事をしながら歩くのは危険ですので気を付けてくださいね」


 「はい」


 それでは、失礼いたします。そういって二人は別れた。


 凪螺は城に向かい、綱元は凪螺が来た道を逆戻りしていった。


 「この城の人たちは優しすぎる。・・・・だから護りたい」

 儚く笑った凪螺は強い光を瞳に灯し、城を見上げた。



090510 執筆
090513 更新 哀


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