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繋ぎ、繋ぐ物語
22

 昼下がり、元親がやっと岡豊城へ戻ると、弟二人が下座にて雁首揃えて待ち構えて
いた。

「何だぁ?…二人揃って、如何したんでい」

 元親は上座に座って、不思議そうに二人を眺めた。三男の親泰も、じとっと長兄を
見つめた。

「お久しぶりっす、兄貴」

 一先ず、といった感じで、親泰が口を開いた。

「おう、弥七郎。久しぶりだな」

「うん、兄上。やっぱり兄貴は嘘吐いちゃいないよ」

「……は?」

 元親は、親泰の突然の言葉に目を見開いた。

「弥七郎、お前は目が良いな。……そうか、兄上の発言は嘘偽りではなかったか」

「おいおい、俺にもわかる話をしてくれ」

 弟二人の会話について行けず、元親は思わず前のめりの態勢で話に割って入った。

 親貞は姿勢を正した。

「今朝方、兄上とお話をしたでしょう?その最後に、竜殿に恋心を抱いてい
ると認めていましたが、後になって、それははぐらかす為のものだったのではと思い
至り」

「……それで、わざわざ弥七郎を呼び戻したのか?………にしちゃあ、早すぎるが
よ」

「あ、それは俺が丁度此処に遊びに来たら、兄上が、兄貴の真相を暴けるぞって言っ
たから参加したんだ〜」

「真相って……。うんなもん、嘘に決まってるだろ?親貞をはぐらかすのにちょいと
誇張しただけぜよ」

「ほら、そこが怪しいっちゅきに」

「あ?」

 親泰の言葉に、元親は顔を顰めた。

「兄貴は、自分はそのつもりでも、俺は気付いてんぜよ。俺は兄貴と一緒に最後の海
賊討伐に参戦してたから、知ってるんだ」

「知ってるって、何をだ」

「力尽きた竜を抱いてた時の兄貴の顔」

「何だそりゃ」

 元親のしかめっ面を見遣りながら、今度は親貞が親泰に聞く。

「兄上は、一体どんな表情をしていたんだい」

 聞かれて、親泰は幸せそうな笑みを浮かべた。

「護るって、唯それだけだったね。あれ見て、兄貴にも遂に嫁が来そうだと思った
よ。これはもう、直感だな」

「信用のならん直感だな?おい」

「兄上は黙ってて下さい。……弥七郎は本当に目が良いんだな」

「だろ?」

 勝手に話を進める二人に、元親は更に顔を顰めた。

「お前ぇら、よくそんな話に花咲かせやがるな。俺ぁ、竜に恋心なんぞ抱い
てねぇよ」

「さっきは認めてたじゃないですか」

「ありゃ、その場の勢いだ」

「はぐらかす為の?」

「…いい加減、お前ら、喧嘩売ってんのか?それなら上等だぁ、買ってやろうじゃね
えか!」

 だんっ、と片足で畳を打ち、その膝に手を置きながら、元親は二人を睨み付けた。

 普通の人間なら簡単に竦み上がるであろう眼光を物ともせず、弟二人は澄ました顔
で怒った兄を見遣った。

「別に喧嘩を売るつもりじゃありませんよ。それに、これはそんなに兄上が怒るよう
な事ですか?」

 親貞が至って冷静に言うと、隣の親泰も頷く。元親は収まりきれない怒りを堪え、
再び上座に座った。

「……恋心は抱いちゃいねえよ。それは確かだ。…ただ、そんなんじゃ無くてだな、
俺は、あいつに…竜に、人並みの幸せを与えてやりてぇんだ……!」

 元親の握り拳を見つめながら、親貞は口を開いた。

「……それは、押し付けですね」

「……何?」

「兄上……?」

 元親の鋭い眼光と、親泰の視線を受けながら、親貞は再び口を開いた。

「兄上は、竜殿にそうしてやりたいのでしょうが……彼女は、それを望んで
いるとは思えません」「それが何だってんだ。思ってねぇんなら、思わせりゃいい……!」

「それが押し付けだと言っているんです。今まで、竜殿は、兄上に何の仕事
を所望し続けてきましたか?」

「………」

「戦いでしょう?………竜殿は戦いを求めている。それは誰の目でも明らか
なのに、兄上は何故、それを拒否するのですか。……女だからですか?確かに、戦場
において、女など不要なもの。ですが、戦力になるなら話は別です。兄上は、役に立
つなら何でも取り入れるその柔軟さで、四国を手中に治めたではありませんか。何を
今更渋るのです」

 竜は戦いを望む。しかし、元親は、竜を戦わせたくない。その元
親の押し付けを、親貞は遠回りに例えを出して、批判した。

 知略、勇猛に聞こえし弟の批評に、元親は顔を歪めた。

「……お前は、知ってんのか。あいつが、凡そ人としての幸せを与えられず、それが
哀しい事であるとも分からねえで、ただ、生きる為に従順に幾多の人を殺してきたの
を……。お前は、それを知っても、あいつに血塗れの道を歩めと言うのか……!」

 元親の心からの叫びから、数拍の間が空いた。

「それでも」

 真っ直ぐに元親を見つめ、親貞は続けた。

「兄上だって分かっているはずです。彼女の唯一のその望みを完全に潰せば、貴方が
惚れたという、その瞳の凛とした輝きが消えると言う事を。……兄上は、それでも自
分の主張を押し通すと言う。ならばもう一度聞きます。――――何故、戦に身を置か
せてやらないのですか」

 親貞の問いに、竜を大切に思う元親は目を瞑った。



090512 更新


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