繋ぎ、繋ぐ物語 20 浜辺に着くと、元親はどっかりと腰を下ろした。 今日は晴天。微かに残る冬の寒さを掻き消すような風が、温かく辺りを通り過ぎ る。 波も穏やかに打ち上げられ、引いていく。鳥達も朝を告げるような和やかな音色を 奏で、この世界は平和に満ちていた。 元親は眩しい朝日に目を細めながら、それらを堪能した。 活気ある平和な町並みを見るもの楽しいし、部下を連れて海を廻るのも楽しみの一 つだ。だが、こんな、自然の生み出す音だけに浸るのも、なかなかの風情もあって、 心地良い。 そんな中、ふと、元親は先程の親貞とのやり取りを思い出した。 「……信じてんだろうなぁ、親貞の野郎。あいつ、以外に信じ込み易ぃんだよな」 信じているとは、竜の事だ。 確かに、惚れてはいる。大切に思っている。だが、それは一人の人間として、その 存在を認めたが故のものだ。彼女を、一人の女として見て言った訳ではない。 しかし、結果的に親貞から逃げる為に、嘘をついてしまった。 元親にとって、竜とは、そのような存在ではないというのに。 そう、鬼畜魔道の中で、凛と輝く高貴な瞳を見た時から、元親は決めたのだ。 護ろうと。 そして、凡そ、人としての道を歩んだ事のない彼女に、人としての幸せを味あわせ てやりたい。 竜が、心の奥底に秘めている願いを、元親は、何時か聞きたいと思って る。 だから、彼女が望むのなら、仕事を与えよう。だが、殺生に関わる事は避けさせ る。 彼女が、心から笑えるように。凛とした輝きが、より一層に輝けるように。 全ては、ただ、それらの為だけに。 090510 更新 |