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繋ぎ、繋ぐ物語
13



 「もうそろそろ失礼させていただきます」


 半刻程、二人は話すと、凪螺は退出の旨を綱元に伝えた。


 「そうですね。凪螺殿はお仕事の途中ですから。お気をつけてお帰りください」


 座ったまま三つ指をついて頭を下げると、再び廊下に出る前に立ったまま一礼し、しずしずと去っていった。






 綱元の屋敷を出た凪螺はそのまま真っ直ぐ城への帰路につく。


 がやがやとざわめく町。己が仕える主が納めている領地がこんなにも栄えているのを見ると心が暖かくなる。


 子供が走る様子。甘味所の娘が売り子をしている。井戸端会議のごとく話す年配の女性たち。数人のお客が入る小物屋。それらを目を細めてまるで眩しいものを見るように眺める凪螺。


 「政宗様。あなたは間違っておいでではないのです」


 瞳を閉じれば強き、脆い主が浮かんだ。


 ドンッ


 「キャッ」


 「わぁ!!」


 立ち止まっていた凪螺は前方から駆けてきた少年とぶつかった。


 「ごめんなさい!!お姉ちゃん」


 少年が小柄だったのとさほどスピードが出ていなかったためか二人とも転びはしなかった。

 「えぇ、大丈夫よ。あなたは大丈夫かしら?」


 少年と目を合わすようにしゃがみこむ凪螺。


 「うん!!大丈夫だよ」


 ごめんなさい、それとありがとう!そう言って少年はまた駆けていった。


 「またぶつかっちゃうのになぁ」


 賑わう城下の通り。駆けていけば今のように再び誰かとぶつかるだろう。声をかけようとすれば少年はもう人混みに紛れ見えなくなっていた。


 「誰かに言われればわかるかしら」


 ふー、と軽く息を吐き出すと、また城へと歩みを進めた。



 団子屋を通り過ぎ、もうすぐ着物屋の目の前を通る。そんなとき不意に前方、左の横道から気配を感じた。


 チラリ


 歩みを落とし、ゆっくりと横目で通り際に見やる。するとそこには黒い装束を着た男が立っていた。


 「(同業者か)」


 装束云々前に、その気配の消し方で分かる。そいつは凪螺が綱元の屋敷を出てきたときを見て追跡をしていた奴だった。大方奥州の偵察に着たが城に行く前に、伊達家重家臣の鬼庭綱元の屋敷から出てきたやたら仲の良い女から何か情報が聞き出せると思ったのだろう。


 男を見やったとき、ギロリとした瞳と目が合った。


 「(厄介なやつに捕まった)」


 早く城に帰らなければ喜多さんが心配するのに。心のなかで不平を漏らしながら足は自然を装い、人から離れた人気の無い場所に向かっていた。



 だいぶ人影がない林の近く、凪螺は木に寄り添って立っていた。


 ガガッ!!


 己の目の真横に突き刺さる飛んできたクナイ。よく研がれたそれは己の楽しんでる様子が映っていた。


 「キャァッ!!」


 農民のように声をあげる。勿論相手は同業者なのだから迫真の演技だ。


 「死にたくなく場答えな」


 真後ろから聞こえた声。首に突きつけられたクナイ。


 「なっなんでしょうか!?答えますので殺さないで!!」


 悲鳴のような叫ぶかのような必死の声音を出す。


 「伊達の戦力は?」


 ガッ!!


 ブシュゥー!!


 伊達の名前を出した時点でこいつの狙いは我が軍。大体はクナイなどを見ればどこの忍びかは分かるもの。もう不要だと判断し、凪螺は相手の首を掻き斬った。吹き出した血は草花や木々を染めた。そんな中一番近くにいた凪螺は一滴たりとも浴びることはなかった。


 「このクナイは・・・伊賀忍者か。伊賀忍者となると、・・・」


 凪螺の頭中で数々の情報が巡らされていく。


 「・・・、なんだ。べつにどこぞの大名って訳じゃないじゃない。ただの小国治めてる名の知れないヤツのところか」


 クナイをぽいっと捨てるとそれともども、死体だけを指を鳴らすだけで燃やした。パチン、と。


 「少し血の臭いがついたか、」


 それに眉を潜めながらも足取り早く、今度こそ城へと帰っていった。



fin



090428 執筆
090503 更新 哀


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