繋ぎ、繋ぐ物語
11
パフパフと干された布団を叩く。
サンサンと降りかかる日射し。もうお天道様は頭の上まで昇っていた。
「凪螺、またで悪んだけれど、それは他の人に頼むからこちらに行ってきてもらえるかしら」
後ろから声をかけられ、布団を叩いていた手を止めた。
「はいわかりました、喜多さん。こちら、よろしくお願いしますね」
布団を叩いていた物を横に掛けて、軽く手をはたきながら後ろを振り返った。
「よろしく頼むわね」
手渡されたのは青い風呂敷包み。
「わかりました」
大事にそれを両手で受けとると、軽く会釈をし、自分の部屋へと向かった。
「まだ若いのによく働いてくれるわね」
目を細めた喜多の目には小さくなる凪螺の背が写り、それを見る眼差しはとても温かいものだった。
女中時の萌木色の着物ではなく、それよりも華やかな、桜色の着物を着た凪螺が城下を歩いていた。両手に青い包みを抱え、先を見据える瞳はしっかりと前を向いていた。
城から歩き続けていたその足はとある大きな屋敷で止まった。
「失礼致します。私(わたくし)、伊達のお城にお仕えしております、凪螺と申します。喜多さまよりお預かりいたしたものがございまして」
門の両側に立つ門兵に声をかけた。
「凪螺様でございますか。どうぞ御入りください」
立っていた2人の内、1人は凪螺の顔を知っていたようで、声をかける前に会釈したが、もう1人は知らなかったようで、その名を聞いて、ようやくわかったように頷いた。
「綱元様は御在宅ですか?」
門兵から、女中に変わり、女中に案内されている中、凪螺はこの屋敷の主の在宅を尋ねた。来てもいなければ意味がないのだから。
「はい、いらっしゃいます。・・・・・こちらへどうぞ」
長い廊下を歩き、ついたのは三方面を廊下で囲まれた角の角部屋。
「ありがとうございました」
門兵はここまでが仕事だったのか、到着すると去っていった。
「・・・・ふー。失礼致します、綱元様。喜多様代理の凪螺でございます」
一度、深呼吸すると、障子の前に三つ指をついて頭を下げた。
「凪螺殿ですか。いつもありがとうございます、入ってください」
中から、入るように促す声がした。
「失礼致します」
すぅーと静かに開けて入れば、三面を障子に、一面を襖に囲まれた部屋の、中央より少し離れた所で書物を読んでいる綱元が目にはいった。
今日、綱元が屋敷にいるのは彼が休みだからだ。一日の短い休みな為、城下にある自分の屋敷に滞在している。
「こんにちは、綱元様」
綱元の近くまで歩み寄ると、彼から少し離れた、相対する席を進められ、そこに腰を下ろした。
「こんにちは、凪螺殿。いつもありがとうございます」
青い包みを綱元の目の前へさしだす。
「いいえ。私はあまり城にいないため・・・。このくらいは平気でございます」
「それでも重いでしょうに」
心配気に眉尻を下げた綱元。それを見た凪螺は嬉しそうに目を細めた。
「ふふふっ。伊達に女中はしておりません。気になさらないでください」
凪螺が部屋に通されてすぐに運ばれてきたお茶を啜る。
「まだ若いのに。良くできるお人だ」
綱元もお茶を一口含むと、青い包みに手を伸ばした。
「今回の陣羽織は少し風通しをよくしているそうです」
包みから出てきたもの、それは綱元の陣羽織だった。毎回の戦によって血に濡れ、破れ、斬られ、そしてその陣羽織は処分される。基本、陣羽織は伊達家お抱えのお針子が作るのだが、よくこうして、縫い物に大変優れている喜多が小十郎や綱元の陣羽織を作ることがある。そうして作られた陣羽織は、忙しい喜多に変わって凪螺が届けることが常だ。もちろん、城外にいる場合だが。に
「もう雪は溶け、春だからですね。・・・。姉上は本当、よく気を配るお方だ」
たたまれた陣羽織を両手に抱き(いだき)、それを見る綱元の目はとても優しかった。
fin
090428 執筆
090501 更新 哀
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