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繋ぎ、繋ぐ物語
10

 まだ虫も鳴かぬ季節の夜。静けさだけが辺りを包む。

 肩よりも少し伸びた程度の、艶のある髪を下ろし、竜は満天の星空に輝く
三日月を眺めていた。

 此処は、岡豊城。長曾我部元親の居城である。

 その最上階に最も近い位置あるのが、この部屋。今は、稽古の間だけ竜の
部屋でもある。

「ひゅーるりと〜……」

 とある老婆に教えてもらった謡曲を、何となく謡ってみる。

「ああ、大渦。今日も貴方様は渦巻く。神の御手が、今日も鳴門を轟かす。………
だったっけか?」

「……何で土佐出身のお前が知っている」

 周りを氷点下へ突き落とすかのような声で、元親を見遣る。

「阿波に行った時に、婆さんから聞いたのさ」

「阿波で……」

 同じ老婆だろうか。

「それより、まだ寝てなかったのか?もう牛の刻をとっくに過ぎたぜ?」

 元親は竜の隣に座り込むと、心配げに聞いた。

「そんなの、お前の知ったことではないだろう。大体、元々はお前の居城であるとは
言え、今は私の部屋だぞ。勝手に入ってくるな」

 竜は、何時ものように、にべもなく言い放った。

「お前こそ早く寝たら如何なんだ。卯の刻まであと二刻だぞ」

「俺は仕事を終わらせてたんだ。そしたらこんな時間になってたって訳だ」

「それは処務を怠ったお前が悪い」

 つれないな、と元親は微かに苦笑いを浮かべた。同時に、竜の身体が震え
ている事に気が付く。

「竜……。お前、身体が震えてんぞ。寒いのなら早く布団に入れって」

「わかっている」

 そう言いながらも、一向に布団の敷かれてある方へ向かわない。

 段々と、身体の震えが大きくなり始めた。

「おい、竜!?……ちょっと待ってろ!」

 流石にこれは異常だと、元親が医者を呼ぼうとすると、竜は必死にその腕
を掴んだ。

「いい……。何時もの事だ……!医者を、煩わす必要など、無い……!」

「………」

 何時もとは打って変わった姿に、元親は何を思ったのか、静かに座りなおすと、震
える竜を己の腕に抱き込んだ。

「っ……!」

 その行為に、竜は息を詰めた。

 元親は、竜の異常なまでの体温の低さを感じ、抱く力を込めた。

 多少の抵抗はあったものの、体格差で敵わなかった所為か、暫くすると大人しく
なった。

 震え自体は一向に止まらないままだったが、一刻も過ぎるとそれも治まり、そして
腕の中から微かな寝息が聞こえ始め、元親は安堵のため息をついた。

 そして流石に疲れたのだろう、そのまま元親も深い眠りに落ちていった。





090430 更新


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