繋ぎ、繋ぐ物語
9
バシッ
ビシッ
普段から叩きつられる音と掛け声が聞こえる道場。
それが今日は声援が加えられていた。
そろそろ朝食の時間だと凪螺が道場に向かえばそこは一種の観戦場になっていた。ギリギリまで端っこまで寄せられた人達でできた大きな円の真ん中は袴姿の政宗と小十郎の姿が見られた。
「・・・、はぁー」
目の前に広がる頭の痛い光景に重く、息をはいた。
「政宗様」
その声の大きさは別に大きいと言うわけでもなく至っていつもの、話す時の大きさだった。しかし、ざわめきたったその場はしーんと静かにさせる威力を持っていた。
「朝げが準備できております。そろそろ朝の練習はお止めになされて汗を御流しにおなりくださいませ」
かつん
虚しく、道場の床に政宗の掌から滑り落ちた竹刀の音が、道場に響いた。
「あ、あっあぁ、わかった。わかった。じゃあ解散だ。解散。それぞれ朝練終了の支度をしろ」
吃りながら一気にそう話した政宗は戸口に立つ凪螺の顔を見ないで早足に彼女の隣を歩き去る。
「政宗様、」
始まりから終わりまで終始笑みを浮かべていた凪螺は隣に政宗が来た瞬間、呼び止めた。
「御戯れは程ほどに、してくださいましね」
にっーこり、まるでそんな効果音が付き添うな笑みを最後に浮かべると凪螺は今度は足早に道場を去っていった。
「・・・こっ怖いぜ、さすが喜多様に次ぐ女中にして凪螺様」
この米沢城の女中頭の喜多なら一介の武士に様づされても頷ける。なにせ、女中頭な上に、政宗が元服なさる前まで彼の乳母女として召し上げられ、なんと伊達三傑の1人、知の武将こと片倉小十郎景綱の異父姉弟にして、政の武将こと鬼庭綱元の異母姉弟なのだから。
そんな喜多に並べられるように言われる凪螺は一介の女中だ。なぜ、一介の女中である凪螺が喜多に並べられるように言われ、様までつけられるのか。それは凪螺が驚くほど政宗に信頼され、また仕事ができるからだ。そして、唯一、政宗や、その従兄弟の成実、小十郎はたまた綱元までもしかることができる女性の1人なのだ。他にいるのかって?いるさ、喜多という最強のお人が。
そんな訳で彼女、凪螺はこの城のほとんどの人に様をつけられているのである。
fin
090426 執筆
090429 更新 哀
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