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風花と残月
竜章鳳姿

「ゼロちゃん、おひさー!」
「……久しぶりだな、レン。ノックぐらいしろよ」

 西日と共に入ってきたのは見知った顔だった。そいつは扉を閉めてずかずかと上がりこみ、俺が座っていた来客用ソファにどっかりと腰を下ろす。久々だというのに遠慮のかけらもない。

「冷たいなー。っていうか外寒くて死にそうなんだけど。なんか暖かいのちょーだい」
「あーはいはい。コーヒーでいいか?」

 やけに高いテンションでそう言って、ヘラヘラと笑う。
 相変わらずだ。今や常連客というよりは友人に近い関係になっているのだから別に構いはしないのだが、もう少し遠慮ってものがあっても良いような気はする。

「あ、砂糖3つね」
「入れすぎだろ」

 毎度のことだ。しばらく連絡がなかったかと思えば突然ふらっと現れて、散々我侭を言い尽くして帰っていく。今回も軽く3ヶ月はメールのやりとりすらなかったような気がするが、お互いにそれを気にしたこともない。見習いの頃からの付き合いだし、気を使うような仲でもないからだろう。

「前回彫ったとこどうなった?」

 コーヒーを淹れながらふと思い当たって、そう問いかける。最後に顔を見せたのは左腕を仕上げた時だった。順調ならとっくに瘡蓋が取れて、皮膚も落ち着いたころだろう。

「それがさー、ぶつけて色抜けちゃったんだよね。だから見せにきたんだけど」

 コートを脱いで、壁にあるハンガーにかけながら言う友人に溜息をもらした。
 確か、その前に彫った時もぶつけて色が抜けただの何だのと言っていた記憶がある。いいかげん気を付けろと言いたいのだが、言ったところでおそらく効果はないだろう。こいつには注意力ってものが欠落している。
 深い溜息をつきながらソファへと戻り、我が物顔でそこに居座るレンにコーヒーを手渡した。

「しょうがねぇな…。おら、見てやるから上脱げ」
「いやん。脱げだなんて、今夜は随分積極的ね」
「はいはい気色悪い事言わずにさっさと脱ぐ」

 俺のそっけない反応に、つれないねー、と苦笑して、着ていたワイシャツのボタンを外し始める。最初に露になったのは程よく筋肉の付いた胸元。そこから覗く手彫りの鷹に、懐かしい記憶が蘇った。
 彫り師としての仕事をさせてもらう、最初の相手を探していた時にこいつが申し出た。レンの胸にあるその鷹は、俺の初仕事だ。

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あきゅろす。
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