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風花と残月
満目蕭条



「雪、早くやめよなぁ……」

 窓の外を眺めながら、ぽつりとそう呟いた。

 雪が降り始めてから二週間。
 断続的に降っては止み、また降り始めては止んで、それの繰り返し。豪雪というほどではないものの、明確に「晴天」といえる日がこないままにダラダラと時間が過ぎていく。
 今日はバイトが休みで、既に家事を終えてしまった俺は特にすることもなく、既に何度も読んだタトゥー雑誌に手を伸ばした。
 パラパラとページを捲るものの、思考は全く別のことを考えていた。

 この二週間、ゼロとまともな会話をしていない。
 毎日誰かが下に来ていて、ゼロが飯を食いに上がってきたときに少し話をするくらいだ。
 今や飯を食いに上がってくることも少なくなって、同じ家で生活をしているはずなのに顔を見ることすら稀になっている。……妙な距離があいてしまった。

 雪の降る日は仕方ないのだ。
 そう思う事で一人の空間に慣れようとしても、家主の居ない部屋は広い。特に今日は朝からずっと一人だということもあり、それが一層孤独感を煽った。

 ここのところしばらく、どうして俺はこんなにもゼロの傍に寄りたいと思うのか、というようなことばかりを考えている。未だに、その答えは出ない。
 同じ家で生活している以上既に一番近い距離に居るはずなのに、それでもまだ遠い、と俺の中の何かが言う。きっと今も冷えた手をしているのだろう。俺にはそれを隠したまま、少しずつ距離が開いていく。

 ちら、と見た時計は午後二時を指していた。
 流石に店が営業しているこの時間に誰かを連れ込んでいることはないだろう。そう判断してリビングのドアを開けた。
 ゼロの顔が見たい。久しぶりに、少し話がしたい。

 お客さんの対応をしているようならこっそり上に戻ろうと決めて、そろりそろりと階段を下る。仕事場へ続く扉の前で中の様子を伺うように聞き耳を立てたが、特に話し声は聞こえない。
 ……多分大丈夫だろう。

 ドアを開けて室内に入ると、予想通りお客さんの姿はなかった。ただ、ゼロの姿も見当たらない。それだけじゃなくて、照明が落ちている。

「ゼロ……?」

 躊躇いがちに名前を呼ぶも反応は無いまま、機械の作動音だけが部屋の中に響く。


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あきゅろす。
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