風花と残月
6.
それから、モヤモヤとした気持ちを抱えたままベッドに潜って、いつのまにか朝を迎えてしまった。嫌な夢こそ見なかったものの眠りは浅く、疲れが取れない。
時計を見ればもうバイトに行かなくては行けない時間で、慌てて着替えだけを済ませて会談を下った。
そのまま出掛けにゼロを起こそうと仕事場の扉を開けたが、その腕の中でまた知らない人が寝ていることに妙な感覚を覚えた。晒されたままの素肌も、きっともう熱を取り戻しただろうその手も、昨夜の出来事のせいで随分と遠いものに感じられる。
寝顔を眺めるうちに、理屈で説明できない苛立ちが涌いてきて、結局はゼロを起こさずに部屋を出た。アラームはセットしておいたし、寝過ごすことはないだろう。
裏口で靴を履き替え、ドアを開ける。
俺には触れようともしなかった癖に、と、そう思う理由すら分からないまま大きな溜息を吐いた直後、背後でバタンとドアの閉まる音が聞こえて、憂鬱な気持ちに拍車がかかる。
見上げた空は俺の感情とリンクしたかのように、どんよりと厚い雲に覆われていた。
◇
その日、夕方から雪が降り始めた。
俺がバイト先のコンビニを出る頃には既に道路が白く塗り替えられていて、コンクリートの歩道を踏みしめる度、ズボンの裾に水が染みていくのが分かる。
ギイギイと軋んだ音を立てるゼロの家の門を開けて、その奥にある玄関のドアノブを捻る。見たことのない靴が乱雑に脱ぎ捨ててあって、またか、と思った。
そのまま仕事場の扉を開けることなく、二階への階段を上る。きっと今夜もゼロは上がってこないだろう。
いつものようにリビングのソファで横になった俺の溜息だけが、虚しく部屋の中に響いた。
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