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風花と残月
混迷


 呼び出した相手と散々交わり、シャワーを浴びに二階に上がった時には既に日付を越えていた。
 気だるい体を引き摺り、着替えを取るためにリビングの扉を開ると、まだ明るい部屋のソファの上でリョウが眠り込んでいるのが目に入って、深い溜息を吐く。
 ここ数週間で見慣れていたはずのこの光景も、今の俺には目の毒でしかない。
 
「リョウ、ここで寝んな。風邪ひくぞ」

 いつものようにタトゥー雑誌を手にしたまま、体を丸めて寝息を立てるリョウに声をかけると、唸るような声を上げながら瞼を震わせて、ゆっくりと瞳が開かれていく。

「……おかえり」
「ただいま」

 癖になってしまっているせいで、寝転がったままのその頭についつい手が伸びる。
 撫でられながら気持ちよさそうに体を伸ばす仕草も、目を擦る手の動きも、可愛く見えて仕方がない。
 
「ゼロ、明日忙しい?……イレズミのこと相談したいんだけど」

 悶々とした気持ちで頭を撫で続けていると、起き抜けの少し掠れた声でそう問われて、そういえば以前もそんなような事を言っていたなと思い出す。

「……入れるのか?」
「まだ決めてないけど、色々知りたいんだ。明日、バイト終わりに下行っていい?」

 傷跡の上に彫れるのかと聞かれたときは興味本位だろうと思っていたのだが、相変わらず熱心に雑誌を読みふけっている辺り、真剣に入れるかどうか迷っているのだろう。相談くらいは乗ってやると言ったし、断る理由もない。

「夕方以降なら構わない」と了承の返事をしてやれば、嬉しそうに笑いながら「ありがとう」と言われ、それに自然と顔が綻ぶのがわかった。
 
「あ、冷蔵庫に飯あるから食べなよ」
「わかった。……風呂から上がったら食うわ」

 お前は先に寝てろと続けてリョウを寝室に向かわせ、一人になったリビングで先程までリョウが寝ていたソファの上に腰を下ろし、時計の秒針が進むカチカチという音を聞きながら煙草に火をつける。
 先程の嬉しそうな笑顔が頭を離れない。何度も見た事のある表情のはずなのに全く別のものに見えて、ああ、やっぱり俺はあいつにどうしようもなく惚れているのだと、改めて自覚してしまった。

 ……この先、どういう態度を取っていけばいいのか分からないが、とりあえず寝床は分けないとまずそうだ。
 正直、かなり理性がグラついてしまった。色気もクソも無いガキに欲情するなんて我ながら血迷っているとしか思えないが、どうしようもない事実だ。
 欲求を発散したばかりのすっきりした体でこれなのだから、寝起きで頭がボケているときにあんな顔を見せられたら確実に襲ってしまう自信がある。

 仕事が忙しいなり来客があるなり理由をつけて、下で寝るのが安全だろう。いつまでもそれが通用するとは思わないが、せめてもう少し衝動が落ちつくまでは誤魔化すしかない。

 あいつは表情も行動も、とにかく無防備すぎる。それは俺を信頼しているが故の事だとわかっているのがなおさらタチが悪い。
 手を出すつもりは無いが、何かのきっかけで無理矢理事に及ぼうと思えばできてしまう。

「あー……くそ」

 ごちゃごちゃと頭の中の整理がつかず、無意味な言葉が口を付く。あまりにも自分らしくない思考にうんざりして、とりあえずは頭を冷やそうと、着替えを手に風呂場へと向かった。

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