風花と残月
7.
◇
頭が、重い。
手に持った鉛筆をデスクの上に転がして、こめかみを押さえた。
客の対応をしている間は特に感じなかったが、先程、今日最後の予約客を見送って、デザインを描き始めてから急に思考が鈍くなったような気がする。
よくよく手元の紙を見てみれば、線が歪みデッサンは崩れ、デザインとしては到底使えないようなものが描かれていた。
視界も狭く、思うように作業が進まない。こんな状態では、何かをやるだけ無駄だ。
時計を見れば、時刻は17時。幸い今日、この後の予約はない。いつもより少し早いが、このまま悪化させるよりはマシだと踏んで閉店作業に取り掛かった。
ふらつく足で外に出て看板を畳み、それを手に店内に戻る。いつもならデスクの片付けなどもするのだが、生憎そこまで体力と気力に余裕がなく、戸締りと減菌機の動作だけを確認し、照明を少し落として店内のソファに寝転がった。本当は、二階に上がって休んだ方が良いのだとわかっているが、あの急な階段を上がりきる自信がない。
冷静に考えると、真冬の夜中に肌を晒して眠っていたのだ。そのせいで体調を崩したのかもしれない。
西日が差す部屋で横たわるうちに意識が朦朧とし始めて、それに抗うことなくゆっくりと瞳を閉じた。
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