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風花と残月
4.
 俺の頭を撫でる腕を、じっと見る。袖の長い服を着ていたときは分からなかったが、ゼロの両腕は刺青で埋め尽くされていた。
 要所要所にカラーが使われているが、全体的には黒い刺青が多く、そのどれもが良く似合っている。

「これ、全部自分で入れてんの?」
「……自分で彫ったのは足と腹だけだ」

 他の場所は自分じゃ彫れないと続けて、俺の頭を撫でる腕が止まった。琥珀色の目が、真っ直ぐに俺を射抜く。
 他人にじっと見られるのは、少し苦手だ。居心地の悪さを感じてそわそわしてしまう。

「なんだよ」
「……やっぱ、顔色悪いな。飯食ってねぇだろ」
「う……」

 無言の視線に耐えかねて口を開けば、心配するような台詞を返されて、言葉に詰まる。
 あんな生活でも一応、きちんと食事は摂れていた。ただ、結果的に嘔吐することが多かったせいで標準よりかなり体重が軽い。

 まさかそのまま伝えるわけにも行かず、もごもごと口篭ってしまう俺に、ゼロが小さく溜息を吐いた。俺の額を押さえて上を向かせていた手が一瞬離れて、ぽんぽんと軽く叩くように頭を撫でる。

「そんな気まずそうな顔すんな。言いたくなきゃ言わないでいい」
「……ごめん」
「謝んな。つーかそろそろ……」

 また気を使わせてしまったと少し落ち込み始めたとき、遠くからバイクのエンジン音が聞こえてきた。その音に気付いたらしいゼロが、開きかけていた口を閉じてうんざりした顔をする。

「……でた」
「何?」

 俺が上げた疑問の声を無視して入り口の方に向かって歩きはじめる。バイクの音がどんどん近づいてきて、この家のすぐ近くで止まった。ゼロはドアのすぐ近くで壁にもたれかかり、こちらを見ながら俺に言う。

「リョウ。ビビんなよ」

 何のことだと言おうとした瞬間、大きな音を立てて入り口の扉が開いた。

「超、寒いんですけど!外、っていうか雪!めっちゃタイヤ滑る!」
「うるせぇ」
「冷たっ!自分で呼び出したくせに!」

 先程のエンジン音の主だろうか。冷たい空気と一緒に入ってきた人物とゼロが入り口で言葉を交わす。
 俺はといえば、ドアの開く音に驚いて、目を見開いたままそのやり取りを見つめていた。

「お前のせいでこいつがビビってんだよ」

 なぁ?と言いながらゼロがこちらに戻ってきて、ソファの背もたれに腰掛けた。

「あ、その子?よろしくねー」

 早すぎる展開についていけずに呆然としていたら、ブーツを脱ぎ終えたその人が俺の方を見ながらそう言われる。
 多分、男の人……だろう。肩下まである銀色の髪と中性的な顔立ちで、一瞬女の人かとも思ったが、体つきと声は男性のそれだ。

「……おい、リョウ」

 ゼロに名前を呼ばれてハっとする。銀髪の人がこちらを見ているのに気が付いて、思わず目をそらしてしまった。

「……めっちゃ警戒されてるんですけど」
「だからそう言ってんだろうが」

 二人の会話を聞きながら、この人は一体何者だろうと考える。ゼロの知り合いのようだが、突然過ぎて良くわからない。
 緊張で体を硬くしたまま膝の上で手を握っていると、再びゼロの手が俺の頭の上に乗せられる。

「うるせぇけど、害はないから安心しろ。俺の知り合いだ」

 少しだけ乱暴に撫でられて、ゆっくりと体の緊張が解けていく。もう一度銀髪の人の方を見たら、ニコっと笑って目の前に手を差し出された。

「レンです。リョウ君って呼んでいい?」

その言葉で完全に緊張が解けて、頷きながら差し出された手を握る。さっき挨拶を無視してしまった事を謝ると、「気にしないでいいよ」と笑われた。

 間近で見たレンさんは、綺麗だけど男の人だと分かる顔立ちをしている。
 青っぽい銀色の髪の毛を揺らして笑う様子が美術品みたいに完成されていて、思わず見惚れてしまった。

 レンさんは何をしにここへ来たのだろう。ゼロに呼び出されたと言っていたが、何か用事があるなら俺は邪魔なような気がする。


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あきゅろす。
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