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風花と残月
3.
「──っなに、え、」

 脱衣所の扉を開ければ、上半身を脱ぎかけた状態のガキが驚いた顔で振り返った。断りもなく開けたのだ。当然の反応だろう。

「タオル」

 言いながら、ずかずかと脱衣所に踏み込んで、洗面台の上にある戸棚を開けてタオルを取り出した。そのまま、さっさと上がってこい、と言おうとして振り返ると同時に、言葉を失ってしまった。
 クソガキの上半身に傷がある事に気付いたのだ。それも、無数に。

「……それ、」

 どうした?と言いかけて言葉を飲み込む。中には浅いとは言えない傷もあったが、幸い風呂に入るには差し支えなさそうだ。

「……さっさと上がってこいよ」

 目に入った傷口を見なかったことにして、気にしていないような素振りで脱衣所を出る。リビングにたどり着くとほぼ同時にシャワーの流れる音が聞こえた。それを聞きながら軽く体を拭き、湿った服を新しいものに着替える。
 今度こそどっかりとソファに腰を下ろし、テーブルの上の煙草を取り出して火をつけた。深く吸い、煙を吐いた後で思案する。

 多分、あれは喧嘩でできた類の物ではない。
 少し肋の浮いた体。治りかけの傷や火傷の跡、わき腹を切りつけた跡。随所に残った青痣にケロイド。
 あまりに多いそれらの傷は、どちらかといえば一方的にやられたように見えたし、何より怯えた眼と硬直した体が見られたくない傷なのだと物語っていた。
 無数の傷を抱いて、こんな大雪の日に公園のベンチで倒れていたガリガリのクソガキ。どう考えてもただの家出じゃないだろう。

(面倒なモン拾ったな)

 頭の中でその言葉が繰り返される。
 思えば、今日は朝からついていなかった。運が悪い日の、運の悪い拾い物。仕方がないと諦めて、買ってきたばかりのカップ麺に手を伸ばした。
 ひとまず、あいつが風呂から上がったらこれを食わせて、その後のことはそれから考えればいい。湯を沸かすためにコンロへ向かい、そこから覗いた窓の外では雪が激しさを増して降り続けていた。


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あきゅろす。
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