風花と残月
3. ※
◇
「い……っ」
ギチギチと音を立てるそこが痛んで、目の端に滲んでいた涙が頬を伝った。最初に少しだけ抵抗したせいで拘束されてしまった腕の感覚が、少しずつおかしくなっていく。
「きっつ……」
「よ、すけ……マジ抜け、っ」
勝手な事を呟いて腰を振る洋輔に、非難がましい声が漏れる。今まで何度も強要されてきた行為とは言え、ろくろく解しもせずに押し込まれては流石に辛い。
「うるせぇ」
自由の利かない腕じゃ体を支えることすらできなくて、うつぶせた頭が床にぶつかった。ガツガツと突かれる度に額が擦れて、歯が欠けないように唇を引き結んで耐える。
頼むから早くイってくれ。無理矢理押し込まれた圧迫感と痛みで、快感もクソもあったもんじゃない。早くこの一方的なセックスから開放されたい。
苦痛をやり過そうと腹筋に力を入れると、 頭上でまた舌打ちが聞こえた。俺が抵抗すれば苛立つくせに、何も言わなきゃ言わないで面白くないらしい。
「……なあ。お前も良くしてやるよ」
後ろから、俺の首筋に付いた傷を舐め上げて洋輔が囁いた。荒い息遣いが耳にかかってゾクゾクする。
「うぁ…っ、」
痛みでそれどころじゃないと思っていたのに、体は正直なもので。股間に這わされた手にゆるゆると扱かれて、無理矢理呼び起こされた快感に思わず声を上げてしまった。
「っ……は、すげ。締まる」
露骨な感想を口にして、洋輔の腰の動きが荒くなる。一瞬沸いた快感も、すぐにその痛みにかき消された。
「も、やめ……っ、」
制止の言葉を言い切る前に、さらに激しく動かれて息が詰まる。痛みと息苦しさに、頭の中が白くなった。
洋輔が俺の中に欲望を吐き出したところまでは明確に覚えている。
そのあとも「ヤリ足りない」と呟いた洋輔になす術もなく蹂躙されて。継続する痛みに沸きあがってきた感情を押し殺している内に、少しずつ視界が暗くなっていった。
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