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風花と残月
2.
 連れ帰ったクソガキをリビングのソファに寝かせ、エアコンのスイッチを入れる。青白い顔を眺めながら、このままポックリ逝ったりしないだろうな、と少しだけ不安になった。
 先程から少し震えている。外は大雪で、こいつが寝ていたベンチも屋根があったとはいえ雪が吹き込んでいた。長時間そんなところにいたせいで冷えたのだろう。

 ……めんどくせえ。
 洗面所へ向かいながらそう心の中で呟けば、その言葉が澱のように心の中に積もった。
 なんでわざわざ連れてきてしまったんだ、俺らしくもない。救急車を呼べば済んだ話のはずなのに、わざわざ連れ帰ってきてどうする、とうんざりした気持ちで洗面所で顔を洗い、ついでとばかりににバスタオルを抱えてリビングに戻ると、件の人物と眼が合った。

「……起きたか、クソガキ。」
「…ここ、てか俺、つーかアンタ……え?なんで?」

 不機嫌さを滲ませた声で告げれば、突然のことに混乱しているのだろう、ソファから身を起し、間抜けな面で意味を成さない言葉を呟く。

「俺ん家。病院はやだっつーから連れてきた。……とりあえず体拭け」

 言いながら、手に持っていたタオルを投げ渡す。
 説明とも言えない一方的な言葉だったが、少し状況が飲めてきたらしい。俺の顔を見据えて何かを言おうと口を開くが、その言葉を遮って風呂が暖まったことを知らせる機械的な音声が流れた。

「……そのまま風呂入って来い。リビング出て右の扉」
「あ……うん」

 俺の言葉に従って立ち上がったところに、用意しておいた服を手渡してやるが、まだボケているのか、俺の顔をまじまじと見つめているだけだ。

「洗濯機あるから、脱いだのはそこ突っ込んでこれ着てろ」
「……わかった」

 軽く頷いて風呂場に向かうのを横目に見ながら、ソファに腰を下ろして息を吐き、ふと、自分の分のタオルを持ってきていないことに気付いた。
 あいつを連れてくる時、邪魔になった傘を公園に置きっぱなしにしてきたせいで俺も少し雪をかぶる羽目になったのだ。エアコンで暖まった部屋の中で、それが溶けて俺の髪を僅かに濡らしていた。

 今日何度目になるのかわからないため息をつく。取り出したばかりの煙草に火をつける事無く立ち上がり、けだるい体を引きずってクソガキの後を追うように風呂場へと向かった。


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あきゅろす。
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