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風花と残月
虚に歪む
 ありがとう、とだけ呟いて、リョウが泣きそうな顔で笑ってから逃げるように去って行った。
ぼんやりとその背を見送り、懐からもう一本煙草を取り出して火をつける。煙を吐き出しながら、風に舞う雪と煙に目を細めた。

 思えば昔から雪の日は気分が悪い。人肌が恋しくなって、男でも女でも適当な相手を欲望のままに抱くのはもはや習慣と化している。幸か不幸か相手に困ったことはないし、恋愛感情なんてなくても、誘えば付いてくる奴は昔から山ほど居た。一夜限りで体を重ねた相手なんて両手を使っても数え切れないだろう。

 シートに腰掛けたまま、今日は誰を呼び出そうかと考え……ふ、と自嘲気味な笑いが零れた。昔のレンを笑うことなんてできない。俺の方がよっぽど節操のない遊び人だ。
ポケットに突っ込んであった携帯を取り出し、アドレス帳から適当な相手を探し出す。通話ボタンを押せば、三コール目であっさりと繋がった。

「ああ、俺。今から来れるか?……うん、会いたい」

 受話器の向こうに居る相手に、上っ面だけの甘えるような言葉を吐く。会いたい、なんて微塵も思ってない癖に、こんな時ばかりは調子のいい嘘をつけるものだ。

「じゃあ、鍵開けてまってるわ」

 そう言って電話を切り、相手をベッドに誘い込む口実を考えながら、先程まで腕の中にあった体を思う。衝動的な自分の行動を振り返って、苦い感情が胸を満たした。

 雪が降り始めたのを目にした時、断片的に思い出したのは、俺がよく見る孤独な夢だ。あの夢の俺はまだガキで、降り注ぐ雪に一人で耐えている。一瞬で、それが最初に公園で見たリョウの姿に重なった。

 リョウが妙に俺の保護欲を煽るのは、ガキの頃の俺に似ているからだ、と気付いた次の瞬間には、理性もクソもなく抱き寄せてしまっていた。
 告げた言葉は本心からの物だったし、そこに下心はない。だけど抱き寄せる瞬間、あいつの温もりを求めていたのは俺の方だ。

 執着の理由も、わかってしまえばなんて安易なものだろう。傷だらけのガキに昔の自分を重ねて、俺が救われたいだけだ。余裕な大人のふりをしていても、その裏には雪に怯える俺がいた。


 自分では処理しきれない感情に、理性の糸が細くなる。
 コンクリートに煙草を落とし、エンジンのキーを回すとどうしようもない欲望の波が押し寄せて、俺を飲み込んでいく。今はただ、体を重ねて冷えた手を温めたい。それができるなら相手なんて誰でもいい。

 雪の降る道をバイクで走りながら、自分の浅ましさに吐き気がした。




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