風花と残月
3.
リョウの道案内に従い、自宅から十五分程度走った場所でバイクを歩道側に寄せた。先程より太陽は高く昇りつつあるものの、空には分厚い雲がかかっている。
「迷惑かけて、ごめん」
エンジンを止めた後、バイクから降りたリョウがヘルメットと上着を返しながらそう言う。それを受け取ってサイドバッグに押し込み、シートに腰掛けて煙草に火をつけた。
うつむいたリョウの顔を覗き込めば、先ほどまでの年相応な表情はなく、再び感情のない目に戻ってしまっている。
「……お前は何でもかんでも謝りすぎだ」
やはりこういう顔は似合わないと思いながら、シートに腰掛けたまま腕を伸ばして頭を撫で回す。またガキ扱いするなと怒るかと思ったのだが……そうではなく、泣きそうな顔をされてしまった。
最初に出会った時もこんな顔をしていた。相変わらず、無性に俺の保護欲を煽る。
「あ、……ありがとう」
そんな顔で、泣きそうな声でそんな事を言われても、どうしてやったらいいのか分からない。かける言葉が見つからなくて、地面に落とした煙草を靴底で踏み消した。
いつのまにか雪が降り始めている。ちらちらと景色に混ざるそれに気付いた瞬間、不意に抑えきれない感情に襲われた。
湧き上がる衝動のままにリョウの腕を引き、バランスを崩して倒れこんで来た体を抱き込んだ。
「……!?」
「──っくそ」
軽くて、細い。このまま力を込めたら折れてしまうんじゃないかという錯覚に囚われる。
突然の事にびくりと硬直してしまったリョウの頭を右手でかかえて自分の胸に押し付け、もう片方の手でポケットに忍ばせていた名刺を手渡した。
まともな人付き合いをしてこなかった俺は、泣きそうなガキを目の前にしても、それを慰める方法さえろくに知らない。
「……何かあったら連絡しろ」
こんな事を言っても、きっとこいつは妙な遠慮を見せて、連絡なんてしてこないのだろう。それがわかっていながら、適切な言葉が見つからないのがもどかしい。リョウを相手にすると、衝動的な行動を取りやすくなることに今更気付いたが、それがどういう意味を持つのかも分からない。
掠れそうになる声を押し殺して、最初と同じ、俺らしくもない台詞を搾り出した。
「いつでも来い。……お前の居場所になってやる」
そう言って、震える体を抱きしめる腕に力を込めた。
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