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風花と残月
2.
 少しだけ大げさに溜息をついてみせた。
 昨日の「悪いからいい」は警戒心剥き出しだった癖に、今は本当に申し訳なさそうな顔をしているものだから調子が狂う。

「ガキの癖に妙な気を使うんじゃない」
「……ガキ扱いすんなよ。俺がガキならゼロはおっさんだろ」

 小生意気に口を尖らせるリョウの頭を、わしわしと少し乱暴に撫でた。

「俺はまだ二十五歳だ。……そういえば、お前今いくつだ?」

 外見から二十歳そこそこだろうと予測をつけていたものの、俺はこいつの事を名前しか知らない。こんな風に自分から相手の年齢を聞くことすら久しぶりだと気付いて、他人に興味を持っている自分に改めて驚いた。

「……十九」

 そう言ってむくれた表情は年相応のもので。バリバリに警戒した顔より、こちらの方が似合っているなと思う。

「十分ガキじゃねーか……少しは甘える事を覚えろ」

 そう言って頭を撫でていた手を止め、半ば無理矢理にリョウの手を取り、思いのほか冷えていたそれを握ったまま階段を降りる。エアコンが届かないために一階の廊下は寒く、一気に体温が下がるような気がした。

「裏から出るぞ」

 玄関兼店舗の扉とは別に、店舗スペースを通らない裏口がある。バイクは普段、そちらに止めてあるのだ。
 裏口付近にかけてあるバイク用のジャケットを羽織り、外に出た。

「寒っ」

 思ったよりも外気温は低く、小さな吐息でさえ白くなるほどだ。目が覚めるどころの話じゃない。今すぐにでも布団に戻りたい気分だ。

「ほら、メット。……と、上からこれ羽織りな」

 サイドバッグから、ヘルメットと一緒にもう一枚上着を取り出してリョウに渡す。リョウも上着は着ていたのだが、この気温の中でバイクに乗るには少し薄すぎる。

「寒いから、前しっかり閉めとけよ」

 メットと上着の装着に手間取っているリョウを横目に、車道手前までバイクを押し出した。跨ってキーを回すが、気温が低いせいでエンジンのかかりが悪い。
 なんとかかかったエンジンをニ、三度ふかして調子を見る。いけそうだ。
 車道手前まで動かしてから、乗っていいと合図する。リョウが後ろに跨って、その重みで車体が僅かに沈むのを感じた。

「足、どこ乗せればいいの?」
「そこ、ステップの上。で、俺の体か後ろのバー、どっちかしっかり掴んどけ」

 両足をついて車体を支え、リョウの体勢が安定するのを待つ。

「やば、ちょっと怖いかも……」

 不安げに呟いてから俺の肩を掴んだリョウに苦笑して、アクセルを回す。

「落ちんなよ」

 エンジンが回転する力強い音と共に、俺の意思に従うバイクが滑り出した。


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