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風花と残月
重なる孤影
****

 耳を塞ぐ手が、冷えすぎて痛い。

 どれぐらいそうしていたのだろう。気づけば雑音は消えていた。
 瞼を開け、煙が消えた空に目を凝らしても、分厚い灰色の雲と雪があるだけだ。

 唇をかみ締め、かじかんだ指先をぎゅっと握った。

 ……俺を呼ぶ、誰かの声が聞こえる。

****

 ──ろ。

 体を軽く揺すられて、薄く目を開いた。誰かが何かを話している。強い光が目を刺激しているのは分かるが、視界がはっきりしない。

「ゼロ!」
「──っ!」

 今度ははっきりと何者かに名前を呼ばれているのがわかって、はっと目を開く。ぼやけた視界に映る、見慣れた部屋の中で、リョウが心配そうな顔をして俺を覗き込んでいた。

「すげぇうなされてたけど……大丈夫?」

 そう言われて、じっとりと寝汗をかいているのに気が付いた。冬場だと言うのに服がベタベタとまとわり付いて鬱陶しい。

「あー……大丈夫。さんきゅ」

 多分、あの嫌な夢を見た。目が覚めると内容が思い出せないが、毎回共通して寝起きの気分は最悪だ。

「……悪い、水もってきてくれ」

 胸元で何かが燻っているような感覚がして気分が悪い。頭を持ち上げるのすら億劫で、蛍光灯の眩しさに手で目元を押さえたままリョウに頼んだ。
 手渡された水を受け取って飲むと、少しずつ現状が把握できてくる。

 どうやらリョウをベッドに運んだ後、リビングでデザインを描きながら眠ってしまったようだ。目の前にのテーブルには鉛筆と、消しごむのカスが散らばっている。
 ソファの上で身を起こして伸びをすると、体のあちこちにある関節が軋んで悲鳴を上げた。

「今、何時だ……」
「朝の六時」
「まだ全然早いじゃねぇか……っ」

 自慢じゃないが、俺は夢云々以前に寝起きが凄まじく悪い。 朝早くから予約がある日は別だが、基本的に起きるのは11時前後だ。こんな朝っぱらから叩き起こされても、頭が言うことを聞いてくれるわけがない。

「……帰るのか」

 リョウを見ると、俺のシャツの上から自分のパーカーを羽織った格好をしていた。回らない頭でそれがどういう意味なのか結論を出して問いかける。

「うん。……ベッド占領してごめん」
「気にすんな。……傷の具合はどうだ」

 ほんの少しだけ聞くか否か迷ったが、今更だと思い直して問いかける。一瞬だけ表情を曇らせた後、もう痛みはないという答えが返ってきた。それを聞き、未だ覚醒しきらない頭を振ってソファから降りる。窓の外はやっと太陽が昇り始めた程度で、まだ薄暗い。
 リビングの隅に掛けておいたパーカーのポケットをまさぐり、バイクの鍵を取り出した。

「家、どの辺りだ?」
「え?」
「送ってってやるよ」
「や……悪いから、いい」

 予約は昼からで、時間の余裕もある。外の冷たい空気は、気分転換と目覚まし代わりに丁度いいだろうと思っての申し出だったのだが、またしても断られてしまう。

「おまえなぁ……」

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