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風花と残月
4.

 俺らしくもない。

 頭からシャワーを浴びながら、そんな言葉ばかりが思考を埋める。
 俺は元来、他人とは適度に距離を置くタイプのはずだ。他人にあまり興味を持ったことがない。

 レンはそもそもが見習い時代からの付き合いだし、性的指向が近いと言うことがわかってからはかなり気を許しているが、それを例外として考えると、むしろ人嫌いな方だろう。深く干渉されるのは嫌いだし、バイだのなんだのといっても誰かを抱くときに特別な感情を抱いたこともない。
 そんな俺が、見るからに面倒臭そうなガキに自分から進んで関わるなんて我ながららしくないなと思う。大体、初対面から調子を狂わされてばかりいる。

 シャワーの栓を捻り、湯を止める。その行動で、先程目にしたリョウの体の傷が頭をよぎった。
 あの傷はプライドも何もかも握りつぶすような支配力をもって付けられたものだろう。リョウのあの警戒心も、そう考えると合点がいく。

 あいつの体の傷と、俺が他人の体に描くそれは、同じ一生残る物でも真逆の性質を持つ。俺は相手の誇りを尊重し、あの傷はそれを蹂躙するものだ。

 だが、人には言えない傷を抱えた奴なんて星の数ほどいる。うちの客で何人も見てきたはずだ。
 それでも今まで特別な興味を持った相手なんて一人もいない。俺には関係のないことだと割り切っていたし、一介の彫り師でしかない俺が軽々しく踏み込んでいい物ではないと思っていたからだ。

 だから、どうしてリョウの事がここまで気になるのかわからなくてモヤモヤする。あいつの何が、そうさせるのか。

(……考えても仕方ないな)

 再びシャワーの栓をを捻り、泡と共に霞がかった思考を洗い流す。考えても分からないものは分からない。考え込むから余計にややこしくなるのだ。
 そうやって思考の無限ループに見切りをつけ、頭を切り替えて風呂場から上がる。

 脱衣所で体を拭きながら、リョウにタトゥーを見せてやると言っていた事を思い出した。
 袖の長い服を着てしまえば首元以外はわからないが、俺の体はレン以上に彫り物が多い。多分、普通の肌より彫っている箇所の面積の方が大きいくらいだ。これを見たら、まず堅気だとは思われないだろう。だから普段はあまり人前で肌を晒すことはしない。
 それでも、興味を持っているなら、それがここに来る口実になるなら構わないと思って、上には何も羽織らないまま脱衣所を後にした。


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あきゅろす。
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