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風花と残月
2.
「すぐ行くから、奥の階段上がってすぐの部屋で待ってな」

 俺の自宅は一階が店舗になっていて、その奥にある扉を開くと二階に上がる階段があり、上の部屋は主に俺が寝起きをする居住スペースとして使用している。

 リョウが奥の扉を開いたのを横目に見ながら、壁際の棚から救急箱を取り出した。それを手にしたままデスクまで行き、明日の予約表に目を通す。
 明日は昼過ぎから打ち合わせが三件。施術の予約はない。減菌機の動作と玄関の施錠を確認して、消灯。いつもの閉店作業だ。
 全てを終えて二階に上がると、リョウがソファの上でタトゥー雑誌を読んでいた。

「他の雑誌も見るか?」

 あまりに興味深そうに読んでいるものだから、つい本来の目的を忘れてそんな事を言ってしまった。

「……あんたもあるの?イレズミ」
「まあ、一応彫り師だからな。興味あるなら後で見せてやる。……とりあえず、先に傷出せ」

 そう言うと、リョウは渋々といった様子で服を脱ぎ始めた。傷だらけの上半身が露になる。
 さっきは上着の隙間から見え隠れする程度だったから分からなかったが、出血の元は右肩にある擦り傷のようだ。少し化膿して、傷の周囲が赤く炎症を起こしている。この状態じゃ、消毒やら軟膏を塗っても意味がない。

「……それ、洗うぞ」

 そう言って風呂場まで誘導し、傷口を洗い流してやりながら、こんな状態になるまで放っておいたのか、と言いそうになって寸前で言葉を飲み込んだ。
 ずぼらだから、とかそんな理由じゃないだろうということくらいは察しがつく。

 本当は傷の理由を聞き出して、少しでも気持ちを楽にさせてやりたいと思うのだが、こいつはそれを望んでいない。
 時折痛そうに顔を歪めながら、声も上げずに耐える様子を見てやりきれない気持ちになった。


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