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風花と残月
雪と墨


 レンと別れ、コンビニで適当な弁当を買って外に出ると、周囲はもう大分暗くなっていた。冬場の太陽は足が速い。街灯に照らされた道を少し早足で歩いて帰ると、自宅の前には見覚えのある影が座り込んでいた。

「よお。来たのか」
「……服、返しに」

 立ち上がって手に持った紙袋を差し出しながらそう言ったのは、数日前に公園で拾ったクソガキ。
 差し出された紙袋を普通に受け取りそうになったが、異変に気づいてそれをやめ、悟られないよう、鍵を開けながら誘いの言葉を口に出した。

「茶ぐらい出してやるから上がってけよ」
「いや……悪いからいい」

 何気ない風を装ったのだが、思い切り警戒した表情で断られてしまう。やっぱりな、と軽い溜息をつき、不思議そうにするリョウの腕を掴んで耳元に顔を寄せた。

「……シャツ、血が滲んでんだよ」
「……!」
「ちょ……おいコラ逃げんな!」

 ぼそりと告げた直後、俺を突き飛ばして逃げようとしたが、生憎ガタイに差がありすぎる。掴んでいた異様に細い腕に少し力を込め、それを阻止することはそう難しい技ではなかった。

「っ離せ!」

 焦った表情で叫んで腕を振り解こうとするが、その程度の抵抗で逃れられるほど俺の力は弱くない。逃げようと必死なその体を少し強引に引き寄せた。

「手当てするだけだ。暴れんな」
「余計なお世話だ。離せよ!」

 落ち着かせようとかけた言葉も聞かず、尚も逃げようと暴れ続けるが、抱き込んでしまえば体格差のせいもあって大した抵抗にはならない。腕の中でもがき続ける体にため息を漏らして、僅かに抵抗が緩んだ隙に担ぎ上げる。

「降ろせ!」
「うるせぇ。取って食うわけじゃないから大人しくしろ」

 担ぎ上げられたまま暴れる体に構わず、ズカズカと歩を進めて玄関の扉を開ける。後ろ手に扉を閉める頃になって、ようやく大人しくなった。

「……逃げないから、降ろせよ」

 抱き上げられたままでは居心地が悪いのだろう。俺と目を合わせないようにしたまま、気まずそうにぼそりと呟く。観念したようなその顔を見て、さすがにもう逃げないだろうと判断し、扉を開け玄関の中に下ろしてやった。

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