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風花と残月
その日
 ……今日は厄日だ。

 そう心の中で一人ごちる。
 カップ麺のストックは切れてるし、朝から雪は降ってるし。おまけに面倒なものを見つける始末。

「……おい、クソガキ」

 目の前に横たわる”面倒なもの”に向かって再度声をかけるも、反応は無い。コンビニの帰り、抜け道代わりに使っている公園のベンチで横たわって目を瞑るこいつを見つけてしまった。
 風貌から推測するに、20歳前後だろうか。かなり、若い。少し長めの茶色に染められた髪がよく目立つ。ガンガン雪が降ってるにも関わらずパーカー一枚で寝転んでいるあたり、家出か行き倒れか。どちらにせよ、普段の俺なら絶対に関わらないだろうクソガキだ。
 一瞬見なかったことにしようとも考えたが、放っておけばこのまま凍死だろうと思い直し、仕方がなしに声をかけた。意識が残っているのを確認して、最初は救急車を呼ぶつもりだったのだ。
 携帯を取り出した俺に、消えそうな声で「やめてくれ」と懇願してきたその顔があまりにも必死で、今にも泣き出しそうで。一度は開いた携帯を、思わずポケットにしまいこんだ。このクソガキはそんな俺の仕草に安心したように息を吐いて、再び横たわるとそのまま意識を飛ばしてしまった。


 面倒な事になったな、と思いながら再びその顔を観察する。割と小奇麗な顔立ちだ。服装もこざっぱりしているし、浮浪者の類には見えない。どのくらいここに居たのだろうかと、血の気が失せた青白い頬に触れてみれば、驚くほど冷たい。
 ……見捨てるわけにも行くまい。万が一死なれたら後味が悪すぎる。今の内に病院へ連れて行くという手も合ったが、先程の必死な面を思い出すとそれも躊躇われた。

 見つけてしまったのが運の尽きだと自分に言い聞かせ、諦めに似た気持ちで深い溜息をつく。それから、手に持った傘を畳んでベンチの横に立てかけた。

 幸か不幸か俺の自宅兼仕事場はここから歩いて5分だ。
 ろくに飯も食っていないのだろう。空いた手で抱き上げた体は細く、思っていたよりも随分と軽かった。

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