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記憶喪失


──バタンッ


『ひ、雲雀さぁ〜んっ!骸さんが、骸さんが……っ!!』


「何?どうしたの?骸に何かされたの?」


「こんにちは。」


「え、何その純真そうな笑み。頭でも打ったのかい、南国果実。」


「南国果実……それが僕の名前なんですね。」


「……え、何これ?」


『グスッ…本当に頭打っちゃったんです……。応接室に来る途中に出会ったので、いつものようにどっちが先に着くか競争してたら、骸さん、滑って転けて頭を打って……それでこんな事に……。』


「……“いつものように”って、君たちいつもそんな事してたの?」


「彼女はブレザー、貴方は黒の学ランで、僕は深緑の学ラン……。この学校は制服が自由なんですか?」


「……ここの制服はブレザー。僕の学ランはここの旧服。君の制服が違うのは、ここの生徒じゃないから。」


「ここの生徒じゃない……?同じ学校でもないのに、二人ともこんなに親身になって心配してくれてありがとうございます。僕はいい人達に恵まれて幸せですね。」


「……どうしよう、凄くやりづらいんだけど。」


『……私もです。うわぁ〜ん、骸さんいつもの変人に戻って下さ〜い!』


「おやおや、泣いてしまいましたね。可愛い顔が台無しですよ。僕はここにいますから、どうか笑顔を見せて下さい。」


『──っ!骸さんっ!』


「え、何でいい雰囲気になっちゃってるの?」


──ガチャ


「すみません、何か骸様がご迷惑をおかけしている様な気がしたのでやって来たんですけど……。」


「君は黒曜中の……。骸の頭がおかしいんだ。」


「(こいつ絶対俺の名前覚えてない。)いつもの事です。」


「いや、いつもよりおかしいんだ。」


「おや?僕と同じ制服ですね。もしかして貴方は僕の友人ですか?」


「……え、何これ?」


「うん、僕も同じ反応をしたよ。滑って転けて頭を打って、こうなったらしいんだ。」


『私、何だかこのままでもいいような気がしてきました。人は誰しも何かしら抱えながら生きているんです。骸さんも失った記憶を心の奥底に抱えたまま生きていったらいいんですよ。ねっ、骸さん?』


「ありがとうございます。君は可愛いだけでなく、とても優しい人ですね。」


「いやいや、一見格好いい事言ってるけどダメだよね?それはダメだよね?」


「もうめんどいんで、俺はそれでもいいです。」


「(それじゃ困るんだよ!)もう一回頭を打ったら元に戻るんじゃないっ?」


──ドガッ


『ひ、雲雀さん!無抵抗の人にトンファーをふるうなんて……っ!』


「……ん〜。おや、何故僕はここに?雲雀くん達、勢揃いでどうかしたんですか?…はっ!僕の寝込みを襲おうとしていたんですね!クフフ、すみません、こんなに魅力的過ぎて。……ああ、何だか少し疲れました。僕はもう帰ります。」


「(疲れたのはこっちだ!)」


『(元に戻ってほっとしたような、憎らしいような……。)』


「では帰りましょうか、骸様。」


「そうですね。では、また。」


「(もう来るな、本当にもう来るな。)」



(『何か、記憶を失ってる時の骸さん、少し格好良かったですね。』)

(「……。(本当に戻って良かった!)」)




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