幻柳斎重國に許可を得たとはいえど、実は滞在時間は僅かなのだ。義骸と眼帯と隊章紋によって霊圧を抑えてはいるものの、元々垂れ流す霊圧が尋常ではないことと、霊圧の調整など全くできない二人なので何かしらの制限がかかってしまうのだ。今回は、買い物だけということで僅か半刻程しかない。
 現世の買い物事情に詳しい乱菊に聞いて、お菓子の多いというデパートの地下へと来たのだが、バレンタインデーもあり大変混雑していて思った以上に時間がかかってしまっているのだ。

「おい、まだかよ」
 迷子になりやすい二人の案内役として強制連行されたのは、一護だった。
 人混みに流されないよう、実は先ほどから剣八のすぐ後ろにいたのだ。一護はダウンジャケットにトレーナー、Gパンと極普通の高校生らしい格好なので、周りの者達は連れだとは思っていなかった。

「いっちー、どれがおいしいかしってる?」
「しらねぇよ。そんなん…」
 何時も家では妹の遊子の作ってくれるもの、買ってくるものを食べていたり、せいぜい自分で買ってもスナック菓子なので、デパ地下のお菓子などはさっぱりわからないのだ。
「だいたい、デパ地下へ来るってんなら、俺より井上の方が詳しいんじゃねえか?」
 頭を掻きぼやきながらやちるの問いへと返す。
「そだねぇ、ここ女の子ばっかりだし」
 一護の言う事はもっともだとやちるは頷いた。
「なんで、女の子ばっかりなの?」
「…バレンタインデーだからだろ?」
「なにそれ、お菓子の日?」
 一護はそこかしこに飾り付けにある文字を示し、心なしか頬を染めて答えるとやちるは更に首を傾げた。
「…あー…」
 そう言えば瀞霊廷にはそんなイベントはなかったかと、一護は言いよどむ。他の場所ならばともかく、女性客のひしめくこの場所では非常に言い難い。頬を少し赤らめ小さな声で説明をする。
「…好きな人にチョコレートを贈る日…」
「何で?いつでもいいじゃん」
 子供ならではと言うべきか。やちるはあっさりと正論を言い放つ。
「いつでも、言い難いってことあるだろ。何か決まってると、言いやすいっていうか、なんつーか」
「男の子はないの?女の子ばっかだよ」
「……お、男はいつでもいいんだよ」

 非常に言い難い核心ばかり突いてくる問いに、一護はこの場に織姫か雨竜がいてくれたらと、心底願うばかりだ。
「ふーん、変なの」
 やちるはあっさりと大きな口を開けて笑いながらも剣八の肩から飛び降りた。

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