「うっわああ!ちょこれーとがいーっぱい!」
 やちるは瞳を輝かせてショーケースを覗き込んでいた。
「ねえねえ、剣ちゃん!みてみて、チョコレートいっぱいだよ!」
「ああ、そうだな」



 この日二人は珍しく現世に来ていた。
 自分の誕生日だからおねだりをしたのだ。
「ねえねえ、おじいちゃん。剣ちゃんと現世でたんじょー日のお祝したい!」
「そうかそうか」
 子供には甘いのかしらないが、幻柳斎重國はあっさりと許可を出した。
 
 そうして、やちると剣八は義骸に入って現世へとやってきたのだ。

 十二日は現世ではバレンタインデー直前ということもあって、あちこちチョコレートで溢れている。
 様々な形のチョコレートにやちるは瞳を輝かせているということだ。

「で、どれにすんだ?」
 2メートルを超える長身、変わった髪型に、革のジャケットにズボン。左目や頬に走る傷痕に右目に眼帯。凶悪すぎる出で立ちの大男のお陰で、やちるのいるショーケース周辺には客がいなくなってしまっている。
 フリルのついた黒いワンピース。スカートの下にはペチコート。白のハイソックスに黒いエナメルの靴。いわゆるゴシックロリータと呼ばれる服装が、この上なく似合っている。パンクな格好とゴスロリな格好の少女の関係はなんだろうかと、皆が首を傾げる。
「うんとねー、これとー、それとー、あ、これとー、こっちも!全部一個ずつ!」
 指で指示しやちるが元気よく注文すると、店員は慌てて指示通りにチョコレートを取り箱へと入れていく。
「あ、リボンとかいらないよ。すぐ食べるから」
「あ、はい畏まりました」
 紙袋へと入れて箱へと入れると、剣八へと料金を告げる。
「ほらよ」
 剣八は何も文句を言わずに金を差し出す。剣八もやちるも金銭感覚は欠落しているのだ。やちるは浪費家だが、一応自分の給与と、女性死神協会の資金を利用して、剣八はほとんど使わないので意外に貯まっていたりするので、こうした買い物のときに一気に消費してしまう。
「あ!見て剣ちゃん!おっきいチョコがあるよ!」
「ああ」
 やちるは荷物を剣八へと預けて目に留った、コーナーへと走り出す。
「やれやれ…」


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あきゅろす。
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