長椅子に寝転がっていると、ばしばしと本で叩かれ書類を突き出される。
「ん?何?」
 解っていながら問いかけると、七緒は用意していた紙を突き出した。

【この書類に署名と印をお願いします】
 若干書きなぐったように乱れているのは怒っている証拠だろう。
「へいへい」
 腰を重そうに持ち上げると、七緒は眼鏡を持ち上げ微妙な表情になった。
「ん?何?」

 七緒はさらさらと紙に何かを書きそっと差し出した。
【張り切り過ぎて腰を痛めましたか?もうお年なのですから無理はなさらないでくださいね】

 無論嫌味を含んだ言葉だ。

 春水は一瞬、その通りだからと言ってさぼろうかとも思ったのだが、昨日の行為が制限されてしまうのは困る。断じて困る。
七緒と愛しあうのに、自分は若く腰は一番丈夫だと思わせたい。

「ん?いやいや、まだまだですよ。七緒ちゃん。証拠を見せようか?ボクまだ元気なんだけれど」
「……」
 七緒はひくりと頬をひきつらせたかと思うと、力いっぱい本で春水の頬を叩いた。
「痛いっ!」
 七緒は筆を持ち乱暴に紙に書きなぐる。
【くだらないこと言ってないで、さっさと仕事してください!】

 怒る七緒を見微笑を浮かべる。
 それでこそ七緒だと。

「ねえ、ボクの七緒ちゃん」
 いつもなら誰がボクのだと即切り返される所だが声が出ないという利点はここにあった。
 鋭く睨みつけられるだけで声には出さない。紙に書くのも面倒だと言わんばかりの素振りを見せる。
「後で、おいしい甘味処行こうか?甘い食べ物の方が喉の通りがいいでしょう?」
 これにはこっくりと七緒は頷いた。


 たまにはこういうこともいいものだと春水は悦に入り、七緒は来年は違う趣向にしてもらおうと決意したのでした。




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