「そんなことしたら、ますます思い出してしまうじゃないですか」
「そうかい?たまにはそういう誕生日でもいいけれどねぇ…」
「あら、珍しい、よろしいんですか?」
「七緒ちゃんと愛し合うのはもちろん前提だよ?」
 春水は七緒の肩を軽く抱き寄せて頭を下げて、眉をあげ驚きの表情を見せている七緒の唇を軽く奪った。
「……気弱になった七緒ちゃんを慰めるってのもいいかもね?」
「…そんなの…いつもじゃないですか…」
 頬を染めちょっとの恥じらいと、ちょっとの悔しさを滲ませ、ちらりと睨みあげる。
「…わ、可愛いっ」
 春水はそんな七緒の表情一つ一つがかわいらしくてたまらないと笑みを浮かべ、もう一度唇を重ねた。
 戯れるように口付けを繰り返しながらも、七緒を抱き上げ布団のある部屋へと連れていく。
 七緒は抵抗することなく首へと腕を回し、瞼を閉じて口付けを受け入れる。
「抵抗しないの?」
「…遅れてしまったお詫びです」
「なぁんだ、お詫びだけ?」
 軽口を叩けるのも解り合っての事だ。

 布団へと横たえ口付けを繰り返しながら死覇装を脱がしていくと、いつもと違うものが目に入った。
「わ!ボクの選んだ下着だね!!」
 死覇装、襦袢の下には珍しく現世の下着を着けていたのだ。
 七緒が一服していた理由はここにあった。
 先日の誕生日に他の物と一緒に贈られ、他の大物を春水の部屋へ置いたまま、小さな箱に入っていたこの贈り物を持ち帰り、勇気を出して春水の誕生日に着てみたものの、あまりに際どい意匠で外から見えないと解っていても心構えが必要だった。
 茶屋などで日常気分を味わって忘れようとしたのだ。
 それが少しばかりの挙動不審になり、乱菊に引きとめられてしまったのだ。

 黒い死覇装、白い襦袢、その下には深紅のレースの下着。絹で肌触りが良いのだが何せ着なれない色と下着である。見つめられるほどに七緒の頬も下着のような色に染まっていった。
「う〜ん、これは是非あっちのプレゼントと合わせて見たいね」
 春水は七緒を下着だけにしてしまうと、再び抱き上げて別の部屋へと連れていく。

 足で行儀悪く襖を開けると、そこには天蓋付きの豪奢な寝台があった。
 そう、大きすぎる、または量の多すぎる贈り物はこういったものだったのだ。
 寝台の柱や天蓋、枕元の板には見事な彫り物があり、天蓋から垂れ下がる布は蚊帳の役目も果たすようで細かな網目になっているのだが、その網目には涼しげな秋の草花が織り込まれている。

 春水は七緒を横たえ蚊帳を下し寝台をぐるりと囲うと、自分も死覇装を脱ぎ始めた。
 七緒はそんな様子を蚊帳越しに見つめる。
「…なんだか、この布一枚で随分違う雰囲気ですね」
 蚊帳に指先で触れると心地よい肌触りだ。
「気に入ってくれたかい?」
 七緒の指先に合わせて春水も蚊帳越しに手を合わせる。
 七日の時はあまりに大きすぎ豪華すぎると逆に叱られてしまったので、春水はちょっとだけ機嫌を窺っているようでもある。
「…全くもう…こういうものは、結婚してから二人用にすればよろしいじゃないですか」
「それもいいねぇ。けれど、うっかり見つけちゃったものだからねぇ」
 現世の西洋骨董を見つけた一人の死神が、元々職人だった彼はすっかりその魅力に取りつかれて作り上げた作品だった。
 蚊帳を捲り上げて春水が入ってくる。
 七緒は少しだけ体をよじってその様子を見守っている。
「うん、やっぱり深紅色が似合うね。七緒ちゃんの白い肌に、このベッドも良く似合ってる」
 そう、春水は全てを一緒に考えているのだ。そのための小さな深紅の下着でもある。
「…隊長?」
「うん?何だい?」
「本当に、これだけでよろしいんですか?誕生日プレゼント」
「うん。ボクのプレゼントをボクだけに見せてくれればそれでいいよ」
 人には盛大に贈ろうとする癖に、春水は自分へは驚くほど無欲だ。
 否、七緒へ対しての気持ちが大きすぎると言った方が良いかもしれない。
 何より、今の七緒は今しかいない。一瞬一瞬の七緒を刻みつけることができればそれが何よりの贈り物だと言うのだ。

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あきゅろす。
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