「すごい人だったのね」
「うん、すごい子だったよ」
「ええ、すごい方でした」
 恐らく乱菊の感じた感想は、春水の言うすごく変、もしくはすごく怖いなどという感情に似ているだろうが、七緒は素晴らしいという意味で使ったようだ。言葉が弾み力が入っている。


「そうそう、七緒ちゃん。この間の七緒ちゃんのプレゼントもボクの部屋置きっぱなしだから探しに来たんだよ」
「あ…すみません」
「どうする?昔のも持ってく?」
「……そう、ですね」
 今なら副隊長という地位のお陰で自室でも十分な広さがある。

「…ちょっと待ってください」
 荷物の内容を思い出すように口元に指をあてて考えていた七緒は、ふと重要なことを思い出した。
「…長持…いくつ分ですか?」
「…え〜っといくつあったかなぁ?」
 問いかけに思い出すように軽く天井を見上げながら指を折っていく。
 折られていく指の数に七緒は青ざめ、乱菊は呆れた表情になる。
「…預かっていただけますか…」
「そう?それでもいいけれど」
 春水はにっこりと笑ってどちらでも大丈夫だというように頷いた。

「七緒〜…ちょっと薄情じゃない?それだけ貰っといて。あたしだったら遠慮なく貰っとくのに」
「…乱菊さん。人の話聞いてました?私ではもって帰れないような、保管する場所もないくらいの量だと」
「あら、やちるは持って帰ったり…あ、そうか、朽木邸に置いてることもあるわね…。そもそもやちるは更木隊長と一緒の部屋だから広いし…」
 それでも山ほどの贈り物を貰うとはなんてなんと羨ましいことだろうと、少しばかり羨望の眼差しを向ける。
「…昔も今も仕事が忙しくて、私服着る機会なんて滅多にない上に、殆どが高価なものなんですよ。とても普段着扱いになんてできません!」
 成程、道理で春水の贈り物は吟味に吟味を重ねた一点ものだったりする訳だと乱菊は納得した。
 多すぎては着てもらえない。だが、一着だけならば、何かの機会に着たり、着けたり出来るというものだ。
「それに、七緒ちゃんは連載始めてからどんどん人気出てきて、誕生日はそっちの贈り物も多いもんねぇ」
「あー…」

 春水なりに七緒の記憶に残るような物をと考えているようだ。付き合いが長くなればなるほど考えることは困難になるが、春水は逆に手を抜かない男である。
「マメよねぇ…」
「そんな所にばかりマメでなくって、仕事にマメになっていただければ何よりの贈り物なのですが」
「うわ」
 藪蛇だと春水は肩を竦めた。
「……で、七緒ちゃん、いつになったらボクの所に来てくれるの?」
「……そうでしたね…」
「あら、待ち合わせてた?」
「ん?待ち合わせじゃなくってぇ、今日ボクの部屋へ来てくれるはずが待てど暮らせど来ないから、探しに来たところ」
 七緒としてはちょっと一服してからという気持ちだったのだろうが、そこを乱菊に捕まってしまったのだ。
「隊長の誕生日だもんね、じゃあ手放さなくっちゃ」
 乱菊は笑顔で七緒に手を振る。
 屈託のなさに七緒は溜息しか、でなかったのだった。

 

 さて、乱菊の笑顔に見送られて七緒は春水の部屋へと足を踏み入れた。
「……七緒ちゃん、今日はちょっとご機嫌ナナメ?」
 扉を後ろ手に閉めて様子を窺う。
「…いえ、そういうことではなくって。ちょっと昔を思い出してしまったものですから」
 微笑を浮かべ春水を見上げた瞳は少しばかり揺れている。
「ん〜…そっか」
 そんな話をしていたものだから仕方がないと言えば仕方がないのだが。
「…じゃあ、昔のプレゼントでも開けて見るかい?」

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