「で、その時はどんな着せ替え?」
「私の誕生日をお祝いって言いましたよね」
「うん」
「その時に、それは大量に着物やら髪飾りやら買って貰ったんです。子供ながらにこれは良くない。翌年は絶対に断ろうと決意してしまうほどに」
「…あー…なんとなく想像がついたわ」
「そもそも当時の私ぐらいの年頃の子どもがおりませんでした。いたとしても他隊だったり、それこそ隊に所属していなかったり。だから、小さな女の子の着物や遊び道具など新鮮に目に映ったのでしょうね」
 説明し終えるとお茶を一口飲む。
「当日は夕方まで連れまわされて、買い物三昧。部屋にはとても入らなくて。結局隊長の部屋で預かって貰うことになって…」
「あ〜、それで今度は隊長の誕生日に着せ替えかぁ」
「ええ、せっかく買ったから着て欲しいって」
 無論別室で着替えるよう配慮はあったが、着替えるだけでも疲れてしまい途中で眠ってしまったくらいだ。

「その着物どうしたの?」
「………ああー!!」
 乱菊の指摘に着物の行方を思い出し七緒は叫び立ちあがった。
「京楽隊長の部屋?」
「一部は持って帰った覚えがあるけれど、大半がまだ隊長の部屋のはず!!」
「あらまあ」
 乱菊の相槌は暢気なものだ。所詮他人事だからというものもあるだろう。
「どうしよう」
「……そんなに慌てるなんて、傷ついちゃうなぁボク」
「ひいっ!」
 突如声を掛けられ、七緒は思わず悲鳴をあげてしまった。
「…ひどい、ひどいよ七緒ちゃんっ、そんな悲鳴あげるなんて」
「い、いつからそこにいたんですかっ!気配も霊圧も消してっ!」
 眉間に皺を寄せ目元や口元を下げて嘆き悲しむ表情を作る春水に対し、七緒は驚きに激しく脈打つ胸を押さえつつ、文句を言う。はっきりいって八つ当たりだ。
「うんとねぇ『着せ替えですよ』から?」
「ほとんど最初からじゃないですかっ!」
「ねえ、京楽隊長。七緒の着物はまだあるんでしょう?」
「うん。ちゃんとしまってあるよ〜。いつ取りに来てくれるかなぁって楽しみにしてたんだけれど、七緒ちゃんてばすっかり忘れちゃって」
「あ、う…」
 春水の寂しそうな表情に七緒は思わず言葉に詰まってしまった。

「でも、ちょっと安心したかな」
「え?」
「リサちゃんの事。乱菊ちゃんに話せるようになって。ずっとボク以外に話そうと思わなかったでしょう?」
「…あ…」
 春水の指摘に七緒は茫然と見上げるばかりだ。
「だから、良かったって思ったよ」
「…はい…」
 優しい笑顔に七緒も小さく頷いた。

「すごい人だったんだ?七緒が目指すような?」
 二人の様子に乱菊はよほどの人だったのだろうと推測し、口に出したのだが…。
「いやいやいや、それは違うよ。恐ろしい子だったよ。ボクを平気で足蹴にしたり、よその隊長さんにタメ口きくような傍若無人ぶりで」
 乱菊の解釈は間違っていると言わんばかりに手を振り、真面目な表情で大きな溜息を吐きだした。
「う〜ん…ちょっと乱暴な一面はありましたけれど、私にはとても優しい方でしたよ」
 七緒は首を傾げ春水の説明に異を唱えた。
「そりゃ、七緒ちゃんの事を可愛がってたもん。けどボクには上司を上司と思わないようなことばっかりして」
「それは、隊長もいけないんですよ。さぼったり寝過ごしたり、仕事中にお酒飲んだり、何処かへ行ってしまったり。矢胴丸副隊長だってお怒りになります」
 七緒はムキになってリサを庇う。何せ小さな頃に慕っていて、そのままいなくなってしまったのだ、かなり美化されていても不思議ではない。
 乱菊は自分の傍若無人振りも承知しているが、これはかなり自分の上を行く人物だと思えた。

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