「七緒ちゃん」
「はい、何でしょうか」
 春水が声を掛けると、七緒が振り返り見上げる。視線を真っ直ぐに合わせる辺りが実に彼女らしい。

「ねえ、七緒ちゃん」
「はい」
「今日は七緒ちゃんの誕生日でしょう?」
「え?あ、はい」
 そう言えば昨年も祝って貰ったなと思いながら頷いた。
「ボクの誕生日は…」
「十一日ですね」
 春水の言葉を遮り、ちゃんと覚えていると言わんばかりに眼鏡を持ち上げ答える。
「わあ、ボクの誕生日覚えててくれたんだね!嬉しいなぁ」
 素直に喜ぶ春水に七緒は首を傾げた。
「昨年、隊長が私の誕生日の後だと日付をおっしゃいましたから」
「うんうん」
 七緒にしてみれば自分のいる隊の隊長の誕生日だから、覚えるのも当然と言える。
 目を細め笑顔で頷く春水の様子が何処かおかしいとは思いつつも、口に出せない。

「七緒ちゃんにお願いがあるんだけれど」
「お願い?」
「今日、七緒ちゃんの誕生日のお祝いをするから、ボクの誕生日、一緒にいてくれないかなぁ?」
「はい?」
 春水の言葉に耳を疑い思わず聞き返してしまう。
「いつもはいろんな人にお祝いしてもらうんだけれど、今年は七緒ちゃんと二人でお祝したいなぁって思って」
「…はあ…私だけでよろしいのですか?」
 子供の自分とお祝いして何か楽しいのだろうかと首を傾げるばかりだ。
「うん!いいんだよ。ボクから七緒ちゃんのお休み申請しておくから、よろしくね」
「…はあ…」




「で、どんなお祝いして貰ったの?」
 首を傾げ乱菊が問いかけた。
「お祝いというか、着せ替えですよ。当時の八番隊には子供と言えるような者は私しかおりませんでしたから」
 それは七緒の優秀さを物語る言葉とも言える。
「なあんだ、今とそんなに変わらないじゃない。あ、夜が増えた分違うか」
「ぐふっ、なんてこと言うんですか!乱菊さん」
 乱菊がさりげなく言葉を付け足し、七緒は飲んでいたお茶を吹きだすところだった。


 乱菊が子供のころの誕生日はどうしていたのだと七緒に尋ね、素直に答えていたところなのだ。
 恋人同士になってからは想像がつくが、それよりも以前から長い付き合いだった時はどうしたのだろうかと思ったのだ。
 成長し副隊長になったころから話が始まるのだろうかとも思ったのだが、思った以上に昔からで驚きを隠せない。

「そんなにお気に入りだったの?あんた」
「う〜ん…お気に入りと、言えばお気に入りだったのかもしれませんが。それよりも私は矢胴丸副隊長のお気に入りだったのだと思っていましたから」
「へえ、前の副隊長さん?」
「ええ、今考えると。毎月一回私の為に時間を割いて下さったから」
 思い出すようにほのかに遠い目をする。
 今自分が副隊長という立場になってみるとそう思えるのだ。
「ふ〜ん」
 相槌を打ちながらも、七緒の方もきっとその副隊長を慕っていたのだろうと思う。
「で、どこに京楽隊長が関わってくるの?」
「その、副隊長との時間を過ごすのは執務室だったんです。まあ、当然隊長がいますよね」
「まあ、いるわね。自然に顔を合わせる訳か」
「そういうことです」
 詳しい経緯は語ろうとは思わない。
 自分と春水だけが胸にとどめて置きたい、切ない出来事なのだから。

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